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二度目の朝帰り
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水上の言う羊君の正体は予想していたが、黒谷はそのことについて伏せたまま大人しく土産話を聴いた。
「でも羊君、俺の名刺どこで手に入れたのかな。」
「さあな、前にどこかでナンパでもしたんじゃないのか。」
「そうかなあ、仕事関係とかかな。記憶にない顔だった気がするけど。」
腑に落ちない様子でつぶやくのを鼻先で笑う。
「お前、その羊君とやらの名前ももう忘れてんだろ。そんなんで、名刺配った奴の顔を正確に覚えてんのか。」
「そう言われるとなあ。」
結局はその話題についてはそれで終わり、ビールを3本空けて水上は帰ることにした。その際、次こそは助手を紹介しろと黒谷へ言ったが、返事はもういないかもなという一言だけだった。
早朝にガチャガチャと音を立てて玄関が開いた、次いで荒い動作音が続く。黒谷はいつにない騒々しさに、もしや助手ではないのではないかと不審に思いながらリビングから顔を出した。
「お前、どうした。」
呆気にとられる。ものすごくアルコール臭い。おそらく助手の着ているシャツが原因だろう、ボタンをまともにとめていない襟元から大きいシミが出来ている。そして何より眼鏡をかけていない。目を細め黒谷を確認すると、途端に顔が歪んだ。
「これで満足ですか!思い通りになって、さぞ面白いんでしょうね!残念ながらネタなんて何も話す気ないですから、僕はこんなことのために助手になった訳じゃない!」
一言発するたびにぼろぼろと涙がこぼれる。溜まりに溜まった不満が爆発する。酒のせいだったと後から言い訳するつもりもない、仕事を失くしても良い覚悟で全力でぶつかる。雇い主である先生へ、物理的に体ごとぶつかるように胸ぐらめがけてこぶしを振った。
「そうだな。」
いつものように高圧的かつ冷たい反応で即クビを言い渡されると思っていたが、相手は何故か白田の攻撃を止めもせず好きにさせている。
「うう、」
嗚咽が漏れ、疲れたのか手の動きが止まる。ずるずると床へ座り込んでしまった白田の首や鎖骨、胸元の見える部分にはキスマークが散っている。どう見ても情事の痕であり、二度目の朝帰りとはいえ昨日とは様子がまるで違う。相手は水上ではあり得ないかぎり店で知り会った誰かだろうが合意の上とは思い難い。
「すまん。」
素直に謝罪する。当の本人はもちろんだが、黒谷もまた予想だにしなかったショックを受けている。
その言葉に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった助手がふらりと立ち上がった。
「お世話になりました。」
壁に触れながらよろよろと進み自室へ向かう。ただでさえ悪い視力は止まらない涙を拭いながらでは役に立たない。
はっとして黒谷が動いた。どこかで打ったのかあざの出来た腕を掴む。
「待て、辞めるのか。」
それに対し、何をわかりきったことを言っているのかと思いながら掴まれた手にぼんやり視線を向ける。
「とりあえず、シャワー浴びてから休め。ぼろぼろのまま放り出すつもりはねえよ。」
そう言われると、今更ながら自分の格好に恥ずかしさを覚える。この姿で始発の電車が動くまで駅の構内で待ち、さらに徒歩で最寄駅から帰って来たことを考えると目撃者がいないことを祈るしかない。
「とにかく休め。」
声だけ聴けばかつてないほどに優しく、本当に労らわれている気になる。少し迷い、相手の顔を見れないまま提案を受け入れた。
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