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ずるいのは誰
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エントランスで距離を置き立ち止まった待ち人を見て、ロイが抱きつく形で両手を挙げた。
「ノボル!よかった、すごく心配した。」
側に寄ろうとすると白田がその分後ずさる。なかなか距離が縮まらず、さすがにロイが眉をひそめる。
「どうしたの、ホテルでまってても帰ってこないからちかくをさがしたよ。」
ロイの口調からは悪意など感じないが、それでも白田の心の距離は遠い。にもつわすれてたよと差し出してくるので短く礼を述べ、床に置いてくれと頼む。不用意に近づくのは怖く、眼鏡のない状態ではロイの表情はわからないのでますます溝が深まる。
「ノボル。ぼくは君がすきだよ。これからも会いたい。」
そう言われて体が固まる。真摯な声音だが、そんなに気に入られる要素もわからない上に、昨夜の行為は性急で強引過ぎた。ただの体目当てであれば、水上のようにはっきりと言ってもらえば済むことだったのだ。そうすれば痛い目にあったと割り切りあの店には今後二度と近づかない、同性同士とはこんなものなのだと学習もする。
水上が軽薄なのではないと言い聞かせられた筈だ。
「もう会いたくないです。」
「どうして?ぼくといるの楽しくなかった?昨日もその前も、ノボルは笑ってたのに。今日はどうしておこってるの。」
酔ってからはあまり記憶にないが、確かに素面の間はロイの話にたくさん笑い、自分の気持ちを素直に言えた。久しぶりに楽しい酒の席だった。
「怒ってはないよ。ただ、ロイが怖い。」
「こわい?なぜ?よくわからないよ。」
本当に不思議そうに首を傾げ、そっとリュックをその場に置く。白田は目を細めそれを確認すると、ロイが昨日と同じ格好なのに気づいた。
「仕事は?」
「土曜日だから休みだね。これからランチに行こうよ。」
そう言われてはじめて土曜日だと認識する。固定の曜日に休むという生活ではないせいか疎くなっている。
「デートしよう。」
「本気なの?」
当惑する、というのが近い。こうも直球で好意を示されると、本当にずるいのは誰なのかが浮き彫りになる気がした。
「もちろん。ぼくはこわくないよ。楽しいデートになるよ。」
正直に言えばその誘いに乗ってもいい気持ちに傾く。酒を飲めば失敗するという経験を活かせてないのは自己責任で、昨夜のことは白田に落ち度がないとは言えない。それなのにロイだけを一方的に責めている自覚があった。
「ごめん、今日は用事があって無理なんだ。」
そろそろと近寄りリュックを拾う。距離を詰めても、ロイは強引に触れてこない。それが白田を安心させた。
「ざんねんだよ。またさそってもいいかい?」
「そうだね、機会があれば。」
「ノボル、」
そっと肩に触れられて少し身構える。
「キスしても?」
「頬になら。」
軽く音を立てて頬にキスが落ち、電話をかけるジェスチャーをして、まってるよと囁いて去って行くのを見送る。
早速リュックを開けると財布はもちろんだがスマートフォンも眼鏡も入っており、さらには新しい名刺が出てきた。眼鏡をかけて確認すれば水上と同じデザインだが、手書きでプライベートな携帯番号が追加されていてGive me a call.と添えられている。先ほどのジェスチャーを思い出し、なるほどと納得する。
念のため財布の中身も確認したがロイは紳士だった。これで問題のほとんどは解決した。エントランスへ来た時とは違い晴れやかな気分でリュックを抱え、部屋の荷物を整理するべく引き返す。
「ずいぶんとご機嫌だな。」
低い声に、エレベーターに向かっていた足を止める。いつからいたのか、エントランスからは死角になる壁際にもたれ腕組みしている。半年も一緒に生活すれば、ある程度は互いの気持ちを測れるようになるものだ。悲しい習慣で、白田は無意思に浮かべていた笑顔を慌てて引っ込めた。
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