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経験からの学び
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かぶりつく勢いが削がれ、口内を堪能するような動きになる頃には黒谷を拒んでいた腕から力が抜けおとなしくなっていた。
ようやく唇を離し、ぎゅっと目を閉じたままの白田からずれてしまった眼鏡を抜き、次いで乱れている前髪をさらさらっとならす。
「とにかく俺が寝てる間は側にいろ。これはお願いだ。」
そう言い置いて、激しいキスを仕掛けた張本人は眼鏡を握ったまま限界とばかりに眠りに落ちた。目の下のクマを見れば確かに寝不足だったのだろう。
これまでもお願いは命令だった。結局、白田は抱き枕としての役割を担うことになり、もやもやを抱えて目の前の鍵を見つめた。取ろうと思えば取れるが、また起こしてしまう可能性も否めず、さっきのようなことをされるのは避けたい。
「はあ。」
ため息が出る。ここ半年くらいの記憶を探ってみても、白田の感覚からすると嫌われはしていても好かれている可能性は全くない。これがもし嫌がらせの類いだったらと、今までの苦い経験から悪い予感が過ぎる。もしくは単なる好奇心なのかもしれず、猛牛の奇行をいちいち気にしても仕方ないのだと自分を慰めた。
白田には最強の切り札、辞職という心の平穏を取り戻す術が残されている。
「もういいや、寝よう。」
頭の位置を寝やすい場所に動かして目をつむる。一昨日からろくろく眠っていなかった体は休みを欲していたのか、眠気を自覚するとあっという間に引き込まれていった。
泥のような眠りから覚めると、遮光カーテンを閉め切った部屋はすでに暗く隣には誰もいなかった。体はまだ眠気が残っているが、これから行動するための活力は取り戻している。
眼鏡はいつも白田がそうしているように、頭の側に置かれていたので違和感なく自然な流れで手に取りかける。壁にかかった時計を確認すると午後八時に近く、思ったよりも遅い時刻に気持ちが焦った。
部屋を出て、一日の多くを過ごしている仕事場兼用のリビングへ向かう。案の定、黒谷はデスクに向かってくわえ煙草でパソコンのキーボードを叩いていた。
「先生!」
「おう。起きたか。」
隣へ来た助手を見もせずに応える。すらすらと迷いなく画面に文字が表示されて行く、原稿がのっているのだろう機嫌の良い声だ。
「腹減った、なんか作ってくれや。」
耳を疑うほどの通常運転。いつもなら、はいの一声でさっさと作業に取り掛かるところだが今は事情が違う。パソコンの光を反射する綺麗な鼻梁のカーブに視線を当てて、白田は宣言した。
「ちゃんと寝てる間は側にいたでしょう。先生の理由を聞く気はありません。リュックは返してもらいます。」
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