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くだらないこと
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白田は夜中に常にない暑苦しさを感じて目を覚ました。なんだか重苦しくもある。タイマーをセットしたはずの冷房を誤って消したのかと、半覚醒の頭でリモコンを探るつもりが何かにのしかかられていることに気づく。ようやくしっかりと目が開いた。
「わっ、なんだ、」
暗さに目が慣れ、ぼんやりと近くにいつもの壁があるのが見える。そして筋肉のあるごつい腕が白田を背中から抱き込み、柔らかさの全くない長い足が太ももの上から下半身の動きを押さえ込んでいるのが確認できた。この前よりもっとしっかりと密着していて、耳元で穏やかな寝息が聞こえる。
「先生っ!なにやってんですかあ!」
間違いなく抱き枕にされている。今回はシングルベッド、白田一人なら余裕で寝返りが打てるが大人二人となるとさすがに狭い。しかも、相手は高身長で体格に恵まれている。
「ああ?うっせーな。黙ってろ、眠い。」
不機嫌な返事。語尾はすでに眠りの中に引き込まれている様子だ。
「人の部屋に無断で入っておいてそれですか。眠いのはこっちもだっつうの!」
眠気と苛立ちと、安らぎの場を失くしたことも腹が立つ。鍵のない部屋なのは最初からわかっていたが、だからこそプライベートと仕事はちゃんと分けてもらいたいし、黒谷だって今まではそう配慮してくれていたように思う。
ガバァッと腕の囲いを外し、体を起こすと渾身の力でたくましい胸板を押し退ける。思ったよりも力が入っていたのか、眠れる猛牛が単に無防備だったのか。シーツを滑り、ベッドから消えた。
「あ、」
「いでっ!」
「本当にすみませんでした。」
ベッドの横で、床に座って平謝りする。幸いにも頑丈な男は、派手な音を立てた割にはどこも痛めていなかったが頭をぶつけたのは事実で、落ちた場所でそこをさすりながら大げさに嘆いた。
「ああ、まさか落とされるとはなあ。トイレ行った後に部屋間違えてここで寝てたのは謝ってやる。でもなあ、正直傷ついたぜ。俺は繊細なんだよ、もう悲しみでしばらく寝れねえな。これトラウマになってっかもなあ。」
なに言ってるんだと眼鏡の奥の目が呆れる。謝ってやるってなんだ、安眠を邪魔されたのはこっちだろう、そもそも本当に部屋を間違えたのかと心の中で毒突く。まったくもって、怪我でもしたかと本気で心配した一瞬を返してほしいくらいだ。
「はあ、そうですか。」
「だからな、これは提案だ。」
その言葉に嫌な予感しかしない。
「お前は抱き枕として、心の傷が癒えるまで俺の部屋で一緒に寝ろ。」
「いやあ、それは難しいかと。第一に寝てる時間帯違いますし。」
間髪入れず無難に断る。
「大丈夫だ。お前に合わせてやるよ。」
「えっ、いやそれはちょっと、」
「遠慮すんなって。そっちのがいいだろうが。それとも、俺の方に合わせたいのか?」
それでもいいけど、と話を締めくくり始めてる。どうやら抱き枕の刑は確定事項のようだった。
「僕、出来れば一人で寝たいんですけど。」
「あん?」
「いや、なんでもないです。」
思えばイレギュラーの連続だった。まさかこんなくだらないことのために、すでに生活スタイルを変え始めていたのではないかと怪しむ。
「ほら、行くぞ。」
「はあ。」
腕を取られ、名残惜しく自室に心の中で別れを告げる。黒谷の気まぐれが終わるまで、しばらくはこの狭い空間で寝ることは叶わないだろう。
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