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待ち合わせの間
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「いらっしゃいませ。」
カウンターの内側から出迎えたマスターへ会釈する。三度目でもやはり緊張するもので、白田は店内にさっと目を走らせてロイが居ないことを確認すると、リュックを肩から下ろしてそそくさとバーカウンターの隅っこに座った。約束の時間にはまだ少し早い。
美味しいエスニック料理店に連れて行ってくれるというので、彼の勤務先から近いここでの待ち合わせとなった。白田にとっては酒の失敗による諸々の事情で、あまり近寄りたい場所ではなかったが、そこまでこの辺の地理に明るくないので妥協することにしたのだ。
「烏龍茶下さい。」
しばらくすると、少し遅れると詫びのメールが入った。烏龍茶のみで居座るのはなんだか申し訳なくて、好物のチーズの盛り合わせを追加する。カマンベールチーズに舌鼓をうち、ロイの到着を待っていると隣に人影が立った。
「こんばんは。」
その声にチーズを掴んでいた手が止まる。眼鏡の下の目が動揺して揺らぐ。常に入店する人に注意を向けていたわけではなかったが、店内に流れる音楽のせいか人の気配に全く気づいていなかった。
「水上さん。」
「久し振りだね。今日も一人なの?」
会う可能性は考慮していたし、もっと平気なつもりでいた。視線を逸らすのも忘れて、相変わらずのハンサムぶりに見入ってしまう。
「隣、座ってもいいかな。」
そう聞きつつも、断わられることなどないというようにすでに椅子に腰掛けている。実際に、彼を迷惑だと思う人は少ないだろう。
「あ、あの。人と待ち合わせしてて、」
できればよそに座ってくれないかと期待を込めるが、水上は退くつもりがないようだ。白田は奥まった所の壁際にいるため、隣に水上が座れば出入口が見えにくい。
「へえ、やっぱり君って見かけによらず結構遊んでるんだ。そういうギャップいいね。好きだよ。」
とんでもない勘違いをされて、白田が目を見開く。手のひらをぶんぶんと振り、急いで訂正する。
「いえ、あの、誤解です。」
「あはは。俺の前で取り繕う必要ないよ。ねえ、待ち合わせって先生?それとも別の人?」
先生と問われて焦る。二人で過ごしたあの夜のことを思い出し赤くなった。
「先生じゃないですけど、でも、」
「今日も先生にはナイショなんだね。」
さっきからずっと水上に対する緊張で言葉が上滑りし、まともに返せない。水上と黒谷が知人であること、自分のことをどこまで知っているのか見当もつかず、どう言ったらいいのか迷っている間に水上がマスターを呼び支払いを済ませた。あまりにスマートな振る舞いに戸惑う。
「じゃあ行こう。」
「えっ?」
「二人の秘密にしようか。」
耳元で囁く声。場数をこなした相手の雰囲気にのまれてしまう。ロイとの約束を盾に断る言葉も言えないまま手を取られ、店から連れ出された。
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