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知りたいこと
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向かい側に座る水上がラーメンをすすった。白田の想像ではラーメンなど食べないのではと思っていたが、馴染みの店と言うだけあって狭く古い空間に案外溶け込んでいる。
「この餃子も美味いよ。食べてみて。」
「あ、はい。」
中央に置かれた餃子の盛られた皿を勧められて、曇る眼鏡と戦いながら麺を食べていた白田が慌てて返事する。夕食に何が食べたいか聞かれ、嫌がられる前提であえて選んだラーメン屋だった。水上が別のものが食べたいと言えば、気分ではないからと誘いを断る口実にしようと考えていたが目論見は外れた。
箸に挟んだ餃子は大振りで、噛んだ途端に溢れる肉汁が唇を濡らす。はふはふと口の中に空気をやりながら夢中で食べる。不覚にも、気がつけば笑顔全開だった。
「美味いですね!」
「ね。」
いつの間にか食べる手を止めていた水上は白田の感想待ちだったのか、優しく笑顔を返してくる。しばしそれに見とれ、スマホの着信音で我に返った。
「ちょっとすみません!」
慌てて画面を確認すればやはりと言うべきかロイからで、電話に出ながら席を立ち店の外に出てすぐに謝った。
「今日はごめん!あ、急に断りのメールなんかしたから心配させちゃったんだね。」
待ち合わせのバーから連れ出された時に、ロイへは会えなくなったと簡素なメールを送っていたが、それが余計な心配をかけてしまったようだった。
「ううん。待たされたことを怒ったとかじゃないよ。」
心配事を口にするロイへ再び謝り、水上に誘われたことを正直に話すべきか惑い、結局は言えないまま次回の約束を交わして通話を終える。店内に戻ると、餃子を食べていた水上がいたずらっぽく笑んだ。
「今の電話って、先生だった?それとも今日の遊び相手?」
「気になりますか。」
その声に無意識のうちに苛立ちが滲む。左の薬指の指輪は堂々と存在していて隠すそぶりもない、ロイの言っていたように恋人がいるのだろう。だからこそ、この誘いを断るべきだった。
「そうだね、君はどう言って欲しいのかな。」
不満が顔に出ていたのか、水上ははぐらかすように応える。立ったままだった白田が、音を立てて背もたれのないパイプ椅子を引き、丸い座面にどかっと座った。膝に手を乗せて前のめりの姿勢で相手を見据える。
「僕は、浮気に巻き込まれる気はないです。だから先に言っときますけど、ご飯食べたら帰ります!」
宣言して早速箸を取り、少し冷めたラーメンの残りをすすり始めた。いつもよりも早いスピードで咀嚼する。
「なるほどね。」
意外にも水上はこの状況を愉しみだした。白田に負けじと箸を動かし食べ進め、二人が食べ終えたのはほぼ同時だった。
「ごちそうさまでした。支払いは僕がします。」
ぺこりと頭を下げて、足元に下ろしていたリュックを抱えた白田が、テーブルに置いてあった伝票を持って席を立つ。水上ほどのスマートさはなくとも、その真摯さがあれば十分だった。
「うん。お願いしようかな。」
水上は、名前すら忘れた男を初めてきちんと見た気がした。そもそも遊び相手に惹かれる気持ちなど持ち合わせていない。支払いを済ませた白田の後に続いて店を出る。今夜行くはずだったホテルは近くにあるのに、たどり着けそうもなかった。
「駅ってどっちですか?」
「君って名前なんだっけ?」
質問が被り、二人同時に吹き出す。笑いをこらえて水上が左手側を目指して言う。
「駅はあっち。送るよ。」
二人で駅までの道のりを歩きながら、白田は薄々感じていたことを口にした。本日は一度も呼ばれなかった。
「やっぱり、名前忘れられてましたね。僕は白田登です。」
「ああ、のぼる君か。」
白田は内心ほっとする。この調子だと、先生から白田のことを聞いてはいないだろう、もし聞いていたとしても興味がなくて忘れたのかもしれない。
「ん、もしかして最近ロイが夢中のノボルって君か。」
「えっ!」
思わぬ角度から切り込まれる。先生との関係性にばかり気を取られ、ロイと水上が同僚である事実を忘れていた。肯定してもいないのに、ロイから何を聞かされていたのか確信しているようだった。
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