アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
揺れる天秤
-
「ノボル、だいじょうぶ?」
ロイの問いかけに、白田がはっとして目を開く。一瞬の瞬きをしてたはずのまぶたが、いつの間にか閉じていたようだ。
「あ、うん。ごめん、眠くて。」
握っていた箸を置いて、手のひらであくびを抑え答える。ロイの語るカナダでの興味深い話や面白い話に散々笑い、美味しい料理に腹を満たされ、リラックスしたのか我慢していたはずの眠気が強くなってきた。
あれから何の決断も出来ないまま、ずるずると日常に流されて今に至る。昼間も掃除をしながら寝そうになったりと、寝不足からの疲れがたまり、せっかくの楽しい外食なのにぼんやりしてしまう。
「そんなに仕事たいへんなの?」
なんだかやつれたように見える白田へ、箸を上手く使いこなしエスニック料理を食べていたロイは軽く首を傾げた。
「うーん、」
即答出来ずに唸る。白田の仕事が大変なのかどうかの判断は人によるだろう。専業主夫のようなものだ、それも新婚の。開き直ってそれを楽しめるのなら、きっともっと楽になれる。
「大変ていうか、慣れなくて。」
「そうなんだ。助手してる先生がきびしいとか、ノボルと合わないとかそういうこと?」
「うーん、」
掃除や料理に対して文句を言われた記憶はなく、食の好みも二人の間に争いが起きるほどの相違はない。なので、厳しいとか合わないとかはまた違う気がする。確かに以前は嫌な目にも散々あったし、横暴な性格は白田の苦手とするところだった。
「なんて言うか、凶暴な牛がいきなりなついてきて驚いてしまうって感じなのかな。」
「よくわからないけど、それ仕事のこと?」
「うん。」
「それが、ノボルにとっていやじゃないならいいんじゃない。食事は楽しめてる?もし気持ちがしずんでいるなら、ぼくがたすけになれればいいけど。」
「十分に楽しいよ。ありがとう。」
そんなふうに気にかけてもらうだけで、ここ最近の疲れや憂鬱な気持ちが軽くなる。
「よかった。今夜はゆっくりできる?」
ずっと仕事について質問責めだったが、どちらかというとこれが本題だろう。ロイが白田の手を軽く握り、少し上体を近づけて返事を待つ。
「一応、遅くなるとは言ってきたけど。」
今日も返事一つで外出を承諾した男の顔を浮かべる。鈍いながらも今夜の誘いが食事だけで終わるものではないと察し、言葉を濁す。これからどこかのホテルでゆっくりと寝たいのは本音だが、そこにロイと一緒となればそういう行為も伴うだろう。
「ぼくの家で、ノボルがみたがってたドラマをみよう。」
メールでそんな話をしていたのを思い出す。アメリカの連続ドラマで、途中まで見て続きを気にしながらも放置していた。
観たいという欲求と、それは少し軽装なのではないかという危機感。二つを天秤にかけて迷う。前回、ロイの誘いをドタキャンした負い目もある。
「あと、おいしいチーズをもらったんだ。好きだったよね。」
それが決め手だった。天秤が揺れ、欲求が危機感に勝つ。寝不足もこの判断の後押しをしていた。
「行く!」
白田がロイの手を勢いよく握り返すと、人懐こい笑みを浮かべ嬉しそうに頷いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 39