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迷惑の報酬
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白田は久し振りに、隣に人の気配を感じて目を覚ました。いつもの抱き枕感覚なら太い腕が囲い込むように前へ回され、背後からぴったりと大きな男が隙間なくくっついているはずなのに、わずかに背中へ熱を感じるだけで両者の間には隔たりがある。
「あれ?」
ぼんやりした視界でも天井の色が違うのはわかった。体を起こし手探りでいつも通りに枕元の眼鏡を探すが、ないのでさらに手を伸ばしヘッドボードに置かれているのを見つけた。昨晩一緒にいた人物は覚えている、眼鏡をかけて改めて隣を見た。
予想通りで、やっぱりと一人で頷く。朝目覚めると見知らぬ場所だったという失敗は今年に入ってこれで二度目。いずれも飲酒後、相手も同じである。幸い頭痛はないが、腫れているようにまぶたが重い。
なんでだろうと首を傾げ、おもいっきり泣いたのを思い出してそれが原因だとわかった。
「うわ。」
やってしまったと、穴に埋まりたい気持ちでビールの誘惑に負けたことを後悔する。自棄酒を呷りたくて、ビールくらいなら大丈夫だろうと過信した自分を呪う。
念のため布団をめくり、ちゃん昨晩と同じ服装のまま寝ていたことに安堵する。しかしどう見てもホテルではない個人の自室で、ここまでどうやって来たのかをおぼろげな記憶をたどる。背中を向けて就寝中の水上を起こさないようにベッドをそろりと出て壁時計を見れば、白田の体内時計は正確にいつもの起床時間を告げていた。
なんだかいい夢を見た。覚醒しそうなまま微睡み、焼けたパンの美味しそうな匂いに、これはまだ夢の続きなんだろうと寝返りながら枕に埋もれる。自宅で朝食を用意してくれる者など長いこと居なかった。
「水上さん、朝ですよ。」
控えめに声をかけられ眉をしかめる。スマホにセットしてるはずのアラームは鳴っていない、ますます夢かと思い再び寝返りを打とうとしはっとした。目を開けると、眼鏡越しに困ったような目がこちらを覗き込んでいる。
「ああ、おはよう。寝癖ついてる。」
あまりに無防備なので、手を伸ばして跳ねている横髪に触れると、白田は慌てて自分の手で髪を抑え恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「わ、すみません!あ、あの、勝手に朝食を用意したんですがよかったら一緒に食べませんか。あ、でも要らないなら後ででも。ついクセで作ってしまって、すみません。」
ごにょごにょと、尻窄みに謝っているのが微笑ましい。
「食べるよ、ありがとう。」
礼を言うと、ホッとしたように微笑んだ。
「昨夜は大変ご迷惑をおかけしました。でも、あんまりはっきりと覚えていなくて。色々とすみません!」
水上が朝食の席に着くと、白田が深々と頭を下げてきた。
確かに、昨夜は大変だった。なかなか泣き止まないうえに何故か右足を引きずるように歩く白田の手を引き、水上は通りでタクシーを拾い自宅へ向かった。その後もビールを欲する白田に付き合って自宅で飲み、恋愛相談や先生の愚痴を受けながら過ごし、気がつけば終電を逃してしまっていたので、度々に涙腺崩壊してしまう白田をなだめてベッドに押し込み一緒に寝たのだ。
「とまあ、ざっくり話すとこんな感じ。」
水上は用意してもらった温かなスープとサラダ、ハムとチーズを挟んだトーストを食べながら語った。うわあ、と白田が自身の所業に青ざめている。
「本当にすみませんっ。」
手に持っていたスープのカップをテーブルへ置き、白田がまたも頭を下げて謝っている。
「そんなに謝んなくていいよ。別に怒ってないし。それに、」
多少の面倒はあったが、昨夜の件は水上にとってマイナスばかりではない。どちらかというとプラスである。
「その調子なら忘れてしまっているんだろうけど、君は一週間この部屋で暮らすことになってるよ。先生からしばらく離れることに決めた後、電話して休暇をもぎ取ったじゃないか。それで行くところないから、ここに置いてくれって頼まれたしね。」
「は?」
ぽかんと、疑問の声を発して固まる白田へ水上はにっこりと笑んだ。
「一週間、よろしく。」
「え、ええっ!!!」
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