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浴室の愚者
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「ちょ、先生、使用中なんですけど。」
狭い浴室に白田の声が響く。我が物顔でシャワーを浴び始めた男に、湯船から目を凝らす。黒谷は全く出て行く気配もなく、すでに髪を洗い始めていた。
「そんくらい見たらわかる。だからビール飲んだら行くっつったろ。」
確かにそう言っていたが、普通であれば白田の後に入浴するという解釈になるのではないかと思う。
「そうですけど。そんなに急いでたんなら、やっぱり先に入ったらよかったじゃないですか。僕、上がります。」
どこかに出かける用事でもあって時間がないのかと気を利かせて、浴槽に浸かって間もないのに早々に出る。そうでもなければ友人でもなんでもない、先生と助手という関係の男二人で風呂に入る必要性が思いつかない。眼鏡をかけていないのでユニットバスの壁に沿ってすぐそこの出口を目指す、しかし避けたつもりがシャンプーの泡を流している黒谷の体に肩が触れてしまった。
「あ、すみません。」
「出てく必要ねえだろ。洗ってやるよ。」
ガシッと腕を掴まれて引き寄せられ、いきなり頭からシャワーを浴びせられてずぶ濡れになる。
「ちょっと冗談はやめて下さい!」
抗議は基本的に聞かない男だ。あっという間に泡立ったシャンプーに頭皮を包まれると、大きな手は案外丁寧に髪を通り心地よい。人にやってもらう気持ち良さに目を閉じて委ねてしまう。
「上手いですね。」
「だろ。」
見えなくても声でわかる。黒谷は口元に優しい笑みを浮かべているに違いない。以前はそんな表情をするのはまれだったが、最近はそんな穏やかな顔を見せることも多い。だからなのか、白田にとっての黒谷は手のつけられない荒ぶる猛牛ではなくなり始めていた。まだ猛牛の印象は抜けないが、少しは触れそうな気がするのだ。
「すすぐから口と目は閉じてろ。」
素直に少し下を向いて口を結ぶ。シャワーの水音が近くで聞こえるのでしっかりとまぶたを閉じて待っていると、すぐにシャワーが降り注いで泡が流れ始めた。
「もういいぞ。」
水が止まり、ポタポタと水滴が落ちる顔を手で拭って目を開ける。その時にはもう、黒谷は泡立てたボディタオルを手にしていた。まさかと思い先制する。
「ありがとうございました。体は自分で洗うので大丈夫です。」
言いながら、また捕まってはたまらないと急いで湯船に逆戻りした。体まで委ねるとなると黒谷にその気がなくとも、乏しいながらも経験したあれこれに想像がつながってしまう。
「誰も洗ってやるとは言ってねえだろ。なんだよ赤くなって、やらしいことでも考えてんのか。」
「違いますよ!先生相手にそんな失礼なこと思ってません!」
体を洗いながら相変わらずのニヤニヤ笑いでからかってくるのに、身を乗り出すように言い返す。つい見透かされて強い口調になってしまう。少し前まではノーマルだったはずなのにと、風呂場で同性相手に危惧する愚かさに悲しくなった。
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