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デート予行5
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冷静になって自分の痴態に恥ずかしくなったのは、10分後の話。
「あ、あの。立山先輩、泣いたりしてすみませんでした。家まで連れて行ってくれてありがとうございました。きっと重かったですよね。たくさん迷惑かけて、すみませんでした。もう手離して大丈夫ですよ」
「ん?あー」
そう言ったきり、先輩は黙り込んだ。手も繋いだまんま。
自分から離そうとしたらギュッと握り込まれて、離せない。
1分くらい、こんな状態で沈黙が流れた。
さすがに気まずくなって再度手を離そうとすると、今度は先輩の両手が俺の手を包み込んだ。
「先輩、手」
先輩は何も答えてくれない。
目線もどこか遠くを見ているようで、なぜか切ない気持ちになった。
「どうして、泣いたくらいで謝らねえといけないんだろうな」
「え?」
先輩はこっちも向かずに、形のいい唇だけを小さく動かして言葉を発する。
「家まで連れて行くのだって、仕方ねえじゃん。意識失うくらい怖い思いしたんだから。だから、どうしてあんなに怖い思いさせたんだって俺に怒ったっていいのにな」
「え、え?」
先輩の言葉の意味がよくわからない。
だって、きっと家まで先輩は意識を失った僕をおぶっていった。きっと重かった。駅から先輩の家までがどれくらいの距離かは知らないけど、それは絶対大変なことだった。
まだ先輩の言葉に理解が追いついてないのに、先輩は言葉を続ける。
「どうしようもなく傷ついて、泣くしかないから泣く。怖いから手を繋ぐ。そんな当たり前のことが、お前ん中では許されないことなんだな」
「だって、それは」
先輩に迷惑をかけてしまうから。だから、申し訳ないと思うのは当然のことで。
「郡山」
そう僕を呼んだ先輩の手に、力がこもる。
少し痛いくらいに握られているのに、なぜかそれが心地よかった。
「お前は本当、頑張りすぎだよ。あと傷つきすぎ。それがお前のいいとこでもあるけど、せめて俺の前では安心して泣いてほしい。怖いことを怖いと口に出してほしい。これ以上お前が1人で抱え込むとこなんて、痛々しすぎて見てらんねえよ」
そういった先輩の声は震えていて、今にも泣きそうで。
こんな先輩、初めてみた。
痛々しすぎてみていられないのは先輩の方じゃないか。
「う、ぅ…ぁ、ぅ」
なのに、どうして僕が泣くんだ。
先輩の方がずっと傷ついた顔してるのに。
「郡山、俺はお前を守りたい。お前を傷つける全てのものから、お前を守りたいんだ」
「せん、ぱい」
ああ、そうか。
今流してるこの涙は、嬉し涙なんだ。
そして、この人になら話せるかもしれない。
自分の過去もすべて。
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