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体育祭必勝法2
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じゃあ来るよな、ともう決まったかのように言う立山先輩。
迷っていると、遥先生が切り出した。
「でも、たとえ2Aの場所に座れたとしても、郡山くんが体育祭に出るのはかなり厳しい問題だと思うよ。ナツはちゃんと、郡山くんの怖いって気持ち分かってるの?」
「分かっている。俺と八重、城とかがいれば絶対大丈夫だ」
確かにその3人は頼もしい。
だけど、想像すると、岡田くんたちに会うかもしれないという恐怖の方が大きくて。
岡田くんたちのことを考えると、苦いチョークの味を思い出す。呼吸が苦しくて、死んじゃうかと思った。
臭い雑巾の匂いも、殴られる感触も、みんなの笑い声も、鮮明に思い出される。
本当に、本当に怖いんだ。
「全校生徒が同じグラウンドに集まるんだよ。普段の学校生活よりも、郡山くんが郡山くんを傷つける人たちと会う可能性が高まる。そこも全てカバーできるって自信を持った上で、郡山くんに来いって言ってるんだよね?」
「俺がいて郡山を傷つけさせるわけねぇだろ」
「ふぅん。じゃあ、2年生が競技でいなくなる間はどうするの?郡山くん1人だよ。その間に嫌がらせでも受けたらどうするつもりなの?」
「そ、それは」
さすが、遥先生は頼もしい。僕が言いたいこと、不安なところを全て分かってくれる。
「そもそも、どうしてそこまでして郡山くんを体育祭に来させようとするの?僕はずっと前から郡山くんと文化祭や体育祭の時について話し合いを重ねて来たけど、郡山くんは行きたくないんじゃなくて行けないんだよ。それをどうして、ここまで無理やり来させようとするの?」
遥先生は分かってくれている。
僕は行きたくないから行かないんじゃない。本当は僕だって、ちゃんと学校に行きたい。友達と話して、みんなと協力して大縄も飛びたい。だけど、行けないんだよ。
少しの沈黙の後、立山先輩が口を開いた。
「俺はっ!悔しいんだよ!」
「え?」
「なんで郡山が行事を楽しめねぇんだよ。こんないい子が、どうして高校生として当たり前の楽しみ奪われねぇといけないんだ!奪うなら郡山からじゃなくて岡田とかいうやつらから奪えばいいだろ。なのに、どうして、俺悔しいんだよ」
「立山先輩」
そんな風に思ってくれていたんだ。
立山先輩は、ちゃんと僕のこと分かっていた。
僕が本当に行きたくないわけじゃなくて、本当は行事も学校生活も楽しみたいこと。だけど行けないから悔しいこと。
分かってくれていたんだ。
「僕…体育祭、行こうと思います」
「本当か?でも郡山、無理は」
「無理そうだったらすぐに帰ります。でも、立山先輩がここまでしてくれたんです。ここまで思ってくれているんです。その思いを、無駄にしたくないんです」
岡田くんたちに会うかもしれない、なんて考えるだけで、足は震えるし、目の奥は熱いし、内臓が飛び出そう。
だけど、校長先生に必死に掛け合ってくれた立山先輩の姿が目に浮かぶ。
大丈夫だ。僕がたった1日学校に行くためだけに、ここまでしてくれる人がいるんだ。
「僕、行きます」
絶対に無理はしないと言う約束で、僕は4日後に迫った体育祭に出ると誓った。
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