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― ep.1 ―(6)
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◆◇◆◇◆
...【side change】
高校生になった。
新しい環境が、新しい生活が、やっと始まったんだ……。
人の少なくなってきた放課後の教室の隅で、
ぼくは今日も言いようのない幸せを噛み締めていた。
入学してから今日で約一週間。
その間ぼくは1日だってこの幸福に感謝するのを忘れたことがない。
最初の1日目なんか特にその思いは最高潮だった。
何年も…6年ほども、この時を待ちわびていた。
あいつらの居ない、いや違う。ぼくを知ってる人の居ない環境に行ける時を。
小学校の時、
ある日を境にぼくは「オカマ」だと言われていじめられるようになった。
子供の世界ではよくある事だ。
ぼく以外でも、体が小さく貧弱だったり顔が女の子っぽい男子は、
やたらとオカマ呼ばわりされて、
女子のグループに投げ込まれたり、
無理やりスカートを履かされたりしてからかわれたりしていたものだ。
小学生なんてそんなものだろう。
けれどぼくだけは、そんなものでは済まされなかった。
あるきっかけで、主犯格といえるような一番質の悪い男子に完全に目をつけられた。
そのせいでぼくだけは、
子供の世界の可愛いいたずらごっこでは終わってもらえず、
小学校とほぼ同じメンバーで持ち上がった中学校の3年間まで
いじめに支配される生活を送り続ける事となった。
その男子を始め年齢が上がるにつれて陰湿になっていく者も居れば、
冷静にいじめから離れていく者も居たけれど、
どちらにしても、ぼくの周りには友好的に接してくれる人は誰も居なかった。
そして気づいたら、
小学校の途中まで友達だった人達を思い出すこともできなくなった。
少ないながらも居るには居たはずなんだけど、
もはや覚えてもいないのだから、そんなものは存在しないも同然なんだ。
ぼくは、友達が居たことがない。
高校に入ればもしかしたらできるかもしれない、なんて考えたりもしたけれど、
そこまで望むことはないと思い直した。
新しい環境に行ける。それで充分じゃないか。
ぼくのことを知っている人が誰も居ない世界に行ける。
それだけでこの上なく幸せだと思った。
そんな、入学式直後のことだった。
◇◇◇◇◇
ぼくは、目的地から何メートルも離れた廊下で1人でぐずぐず立ち止まっていた。
入ろうと決めていた美術部のクラブ見学はもういつでも出入り自由になっている。
ただ美術室の前まで行ってノックしてドアを開ければいい。
それだけのことなんだけど…。
どうしても緊張して、足が前に進まなくなってしまった。
…念願の高校生になったのに、なんて情けないんだろう。
途方に暮れたように立ち尽くしていると、
後ろからやって来た誰かが、おもむろに僕の横で立ち止まった。
何だ?
きっと怪訝な顔をしてしまっていただろう。恐る恐る隣の誰かの顔を覗ってみた。
「(……あ、同じクラスの人だ)」
その誰かは、残念ながらまだ名前を覚えていないので「誰か」のままだけれど、
一緒に入学式に出席した1年2組のクラスメイトの1人だった。
ぼくが名前を思い出そうとしていると、
彼は急にぼくの方を向いて頭を掻きながらこう言った。
「美術部行きたいんだけどさ、緊張しちゃって」
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