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― ep.1 ―(8)
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◆◇◆◇◆
...【side change】
亜稀を引き連れて美術室へ向かう。
…う〜ん、なんだか本当に「引き連れて」って感じだな。
身軽な自分の少し後ろ気味の横を、大荷物を抱えた亜稀が歩いていると、
まるで俺が荷物持ちでもさせているみたいだ…。
階段の手前で一度、半分持とうかと言ってみたけれど、見事に遠慮されてしまった。
亜稀にとって画材は一番大事な宝物で、
準備室に置きっぱなしにするなどとても考えられないことらしい。
それはたとえ、筆の1本であっても、消耗品である絵の具や木炭の1片であっても。
本当に真剣に絵をやっているんだなと思う。
趣味で絵を描いているだけの俺は、亜稀にも美術部の先輩達にも、
無意識下で何か失礼なことでも言ってしまわないように気をつけようと思った。
◆◇◆◇◆
教室から美術室までは結構距離がある。
4階に居る間は1年生の教室ぐらいしかないので他学年に会うことはほぼないけれど、
1階まで降りると全学年の生徒に鉢合わせまくることになる。
中学の間はこれがかなり厄介だった。
もし知ってる先輩が近くに居たのに気づかないで通り過ぎたりしようものなら、
その日から部活内外問わず大変なことになる。まるで運動部だったよな…。
今はそんな心配がなくなり気楽なもんだけれど、
一応美術部の人が居ないかどうかは確認しながら歩く。
すると…――
「(あ……!)」
美術部の人は居なかったけれど、
それよりもあの人が……
――砂原先輩の姿が見えた!それもこっちの方へ向かって歩いてくる…!
すれ違い切ったところで、俺はつい立ち止まって振り返ってしまった。
「やぁやぁ、ナベちゃん」
「おー、サハラ」
先輩が知り合いらしき人に愛想よく声をかけると、相手も気付いて軽く片手を上げ、
2人はまるでアメリカのドラマか何かのように自然にハイタッチを交わす。
……からの、そのままガシッと手を握り、ブンブン振り回す。
…何だアレ……。
「久しぶりじゃん。元気かね?」
「一昨日会ったばっかだろっつーの」
これはどう見ても砂原先輩のペースで仕掛けた妙にコミカルな挨拶のようだけど、
相手の人はすっかり慣れっこな様子でナチュラルに対応していた。
いつもあんな感じなのだろうか……?
「………」
「…?
汐海、何見てるの? 部活行かないの?」
「………」
気づいたら、俺はまたあの人に見入っていた。
これで何度目だろうか?
今までは遠目にしか見たことがなかったけれど、
初めて、こんな近くで…。
声を聴くことができたし、顔をよく見ることもできた。
そして、すれ違った時に…俺の横を通った彼の存在をしっかり感じることができた。
だから何なんだよって突っ込んでくる冷静な自分も居るけれど、
その瞬間の俺は――何なのかわからない感情にすっかり支配されていた。
「………」
握手。
ハイタッチ。
過度な“スキンシップ”……。
「(仲良くなったら、俺も、してもらえるのかな……?)」
もしかしたら、年下の場合は頭を撫でてくれたり、
他のことも……ハグとか………
……って!? 何だよそれ!!
俺、なんでそんなこと考えてんの……?!
「――」
「ねえ、汐海ってば!
いつまで止まってんの? どこ見てんの?」
「………
……え?
あぁ! ごめん! 何でもないんだ」
「…?」
わけがわからないという顔で見つめてくる亜稀を促して、美術室に向かって歩き出す。
あーあ……ほんとにわけがわからないよな。
先輩はもうとっくに居なくなっている。
何もなかったことにして俺もさっさとここを立ち去ろうと思ったけれど……
「………」
歩きながらも、
自分の両手が勝手に熱くなっているのをどうすることもできなかった。
あの人に触れることを、いつか手と手が触れ合う時のことを、
俺の意志とは関係なく、身体が勝手に想像して――勝手に期待しているようだった。
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