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― ep.2 ―(1)
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「あ、来た来た。いらっしゃ〜い」
「やあ。よかったよ来てくれて。
去年までは初日で辞める部員も居たから、少し心配だったんだ」
元気よく挨拶をしてドアを開けると、明るい声に迎えられて気持ちが落ち着いた。
やっぱりここは居心地がいい。
教室ではいつもおどおどしている亜稀も、美術室に着いた途端に
表情が柔らかくなっているのをはっきりと確認できた。
「もう皆さん揃っちゃってるんですね。
ごめんなさい、本当は一番に着いて準備しなきゃいけなかったんですけど、
HRが長引いちゃって……」
「あはは。いいんだよぉ、ここではそんなこと気にしなくて。
みんな好き勝手にやってるから」
部長の森本先輩は、いつもぽやんとしている温和な人だ。
クラブ見学の時も、俺達が揃って緊張していると、
終始このにこにこ顔でのほほんとしていてくれたから、
難しいことを考える気が削がれすぐに打ち解けることができた。
見ているだけで和む人なんて、この時代には貴重な存在だと思う。
「中学の美術部は厳しかったって言ってたね。
軍隊式に慣れちゃうと、癖を直すのも逆に大変かもな」
副部長の後藤先輩は、そう言って爽やかに微笑んでくれた。
この人も優しそうな人だけど、部長とはまた違った感じで、
眼鏡の奥の涼しげな瞳が印象的な、いかにも真面目という雰囲気の男前さんだ。
「へへへ。失礼します」
この人達のおかげで2日目にしてすっかり部に馴染んだ俺達は、
2人でいそいそと椅子を運んで所定の位置に着いた。
亜稀はそのまますぐに作業の準備に入り、俺は道具を取りに一度準備室に行く。
その通りがかりに、
美術室に入る時に全員に対して挨拶をしたつもりではいたけれど、
一応、もう1人の部員にも個人的に声をかけて新入生らしい対応をしておく。
「阿部先輩、こんにちは。今日もお世話になります」
…相手はこちらをチラリとも見ず、無言で小さく頷いた。
やっぱりちょっと感じ悪いなぁと思うけれど、
いつも一応ちゃんと反応を返してはくれるんだ。
きっと悪い人ではないんだろうなと思いながら、
真剣にキャンバスを見つめるその横顔を、ちらっと覗き見てみた。
「(……わぁ~、やっぱり凄く綺麗な顔してるなぁ…)」
視線の流れに合わせて僅かに上下する長い睫毛に見惚れながら、
俺はふいに初めてこの人と出会った時のことを思い出していた。
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