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― ep.2 ―(2)
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◇◇◇◇◇
入学式の朝。
1駅乗り過ごしてもやっぱりまだ早すぎる時間に学校に着いてしまい、
1人でポツンと教室に居るのも寂しいし、
せっかくだから少し校内をうろうろしてみることにした。
……それに、もしかしたら、
運がよければさっきの「あの人」に会えるかもしれないし。
そんなことを思いながら歩き始めてまもなく、
なんとも不思議な光景に出くわしてしまった。
「…――」
――校舎の中に、「海」があった。
保健室を通り過ぎたところで、
壁の中に唐突に四つ切サイズのリアルな四角い海が現れたのだ。
…その正体は、まるで本物のように描かれた一枚の「絵」だった。
俺はその絵のあまりのリアリティに呆然として、
馬鹿みたいに口を開けたままそこから動けなくなっていた。
とても平面には見えない。
自由をそのまま背負って悠々と泳ぎまわる魚達も、
息を潜めて獲物の訪れを待つ美しい貝も、
自慢のダンスを見せつけ合うようにゆらゆらと優雅に揺れる海草達も、
みんな、間違いなくここに生きている。
絵だと言われるよりも、
海の一部を切り取ってここに持って来たと言われた方がまだしっくりくるだろう。
けれど、本当に驚かされるのはそこじゃない。
この本物そっくりの絵の中に、
よく見ると、御伽話に出て来るような架空の宮殿が小さく存在していた。
リアルな海の中にある、1つの異質な存在。
それがこんなにも自然にその世界の中に溶け込んでいる。
一枚の絵の中で、現実と非現実が完全に融合していた。
しかも、その唯一の異質な存在が主役になっていないところに、
なんとも憎らしい面白さが見える。
「すごい……この絵、誰が描いたんだ……?」
やっと絵の世界から脱出できた俺は、
絵の真横にポスターが貼られていたことに今頃気づいた。
『美術部・新入部員募集中!』
これはもしかして、美術部の人が描いた集客用の絵か何かなのか…?
…俺はここに来て、初めて美術部に入ることを迷い始めた。
ここの美術部はもしかすると、半端な気持ちで入ってはいけないところなのかもしれない。
いくらなんでもここまで描けなきゃいけないはずはないだろうけど…
この作品を見たら、何だか一気に自信がなくなってきた。
複雑な気持ちで再び絵の方に視線を戻すと、
隅の方に小さく…なぜこんなに小さいのか謎だけど、
ネームプレートのようなものが添えられていることに気がついた。
――美術部2年・阿部みちる
これがこの絵を描いた人の名前かぁ、なんてぼんやりと考えていた、
その時――。
「この美術部に入っても、学べるものは何もないぞ」
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