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― ep.2 ―(6)
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◆◇◆◇◆
「おはよう天ちゃん」
「はよ。どうだ、美術部でサハラに会えたか?」
2日ぶりに会った幼馴染は、
会うなりスポーツマンらしい爽やかな笑顔でそんなことを言ってきた。
昨日は朝練があるとかで一緒に登校できなかったので、
一昨日聞かされていた諸々の気になる話も
まだそのままだった。
今年度の活動が始まって早々ガッツリ朝練までやってる剣道部も、
復帰早々それにしっかり参加してる天ちゃんも、よく頑張るもんだなぁと思う。
体育会系の人ってほんとすごいよな。俺には絶対ムリだ…。
「会えてないよ。っていうかあの人美術部に来るの? なんで? 部員でもないのに?」
「なんでなのかは俺も知らないよ。
でもアイツがよく美術部に入り浸ってるのは有名だぞ。
まあ、最初ぐらいは部員水入らずにしてやろうっていう
遠慮があったのかもしれないけど」
「そうなの?
でも去年は3年生が多くて結構厳しく活動してたって聞いたよ?
邪魔にされないものなのかな…?」
「邪魔どころか可愛がられてたみたいだぞ。すげーよな。
アイツ上級生の懐に入るのも上手いから」
…うーん、そうまでしてわざわざ他所の部活に通い詰めるって、
ますます理由がわからない。
それぐらいなら自分も入部すればいいのに、なぜそれをしないんだろう…?
「まあ諸説あるんだがな、俺は一番面白い『デキてる説』を推してる」
「………
………
………は?」
「美術部には同じ2年の阿部が居るだろう?
アイツとサハラの仲がどうも怪しいんだよ」
「は? え? ちょっと、何それ」
もうすぐ駅に着いちゃう!
今日ばかりはこんなところで終わらせるわけにいくものかと、
俺は天ちゃんの頑丈な腕を引っ張り脇道に反らせて、一旦ストップした。
そしてもう一度同じ台詞を言う。
「何それ」
「いやさ、サハラって基本広く浅くっていうか、
あんまり自分のこととか話したりしないし、
妙に友好的な割にはどこか一線引いてる感じなんだよな。
現に俺程度の相手には美術部に通う理由も教えてくれないし。謎が多いんだよ」
「そう、なんだ……」
なんか、少しだけイメージが変わった気がした。
だから何だっていうわけでもないのだけれど…。
「でも、阿部とだけはいつもべったりで。なんかトクベツって感じがするんだ。
みんなだいたいサハラって呼んでるけど、阿部だけは下の名前で呼んでるし。
アイツら2人は中学から一緒で…あ、小学校もだったっけかな?
今はクラスも違うのに、隙あらばいっつも一緒に居るし。
だから一部の間では奴らが『デキてる』って噂が流れまくってる」
「そんな楽しそうに言わないでよ…」
さっきまでの爽やかスポーツマンはどこへ行ってしまったんだと思いつつも、
そういえば天ちゃんは昔から、
「大の噂好き」というオバちゃんみたいな一面を持っていたことを思い出した。
…あぁ、この男も変わってないなぁ。
「だからまあ、阿部が居るから美術部に行くっていう話が一番有力だと思うぞ。
……あ、汐海もしかして、この話聞いて機嫌悪くした?」
「………
――えっ? なんで?」
「ん〜? 別に?
あ、電車来るぞ! 走れ!」
「…っ、ちょ、ちょっと待ってよ! 天ちゃ〜ん!」
前を走るデカイ背中を追いかけながら、俺は内心、酷く動揺していた。
それは、口では「え? なんで?」と言いながらも、
心のどこかで「見透かされた気がした」と思っている自分に気づいたからだった。
見透かされた…? 一体何を見透かされたっていうんだ?
勘付かれては困るような気持ちを、俺はどこかに隠し持っている…?
自問を繰り返す頭の中では、もうずっと同じ顔が浮かび続けている。
――一昨日廊下で見入っていた、初めて近くで見ることができた砂原先輩の顔が。
…あの時も今と同じように、自分の考えたことに戸惑ったんだ。
そして、今――俺は、あの人に会いたいと思っている。
誤魔化すつもりもないし、戸惑うこともない。
見透かされたらまずいような気持ちをどこかに持ち合わせながらでも、
会いたいと思っているんだ……。
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