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― ep.3 ―(1)
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...【side change】
俺は1人、剣道部の部室へ向かっていた。
今日は朝練もなく放課後の練習もないという、珍しく完全に休みとされている日だ。
朝は弟のように可愛がっている年下の幼馴染と一緒に登校できるし、
早く帰れば、食あたりで何日も寝込んでいた俺を心配していた近所のばあちゃんにも
挨拶に行ける。
たまにはこういう日も必要だよな。
そんな日にも個人練習が許可されていれば、
俺もきっと自主的に参加していたのだろうが、
残念ながら部活のない日は練習場は閉鎖されてしまう。
だから今日は道着も持たず、帰り支度を済ませた状態で、
ミーティングルームを兼ねた狭いロッカールームだけを目指して歩いていた。
うちの剣道部は気のいい連中が多く、上級生も下級生もみんな仲がいい。
後輩をいびるような先輩も居ないし、
先輩に失礼を働くような後輩も居ない。
礼儀を重んじる剣道部ならではの、礼儀の上に成り立つ仲の良さだ。
俺はこの環境がとても気に入っていて、こういう意識を部活動だけではなく
いかなる時でも常に持ち合わせる男でいたいと思っている。
弱いものを守り、強いものを尊敬し、
どんな相手にも思いやりを持って接してやりたい。
それが武士の血を引く日本男児の基本だ。
とまあ、そういう高い志も大事にしつつ、だ。
肩肘張ってばかりでは疲れてしまうので、適度に緩く生きるのが俺流。
人を傷付けたりしなければ、噂話ぐらいは趣味として楽しんでも許されるだろう。
俺が今一番関心を寄せている噂は、
この男子校で「恋人同士」だと囁かれている同級生達のことだ。
俺には高校に入って2年連続で同じクラスになった気の合う奴らが何人か居る。
砂原逸彦もその1人だ。
コイツはとにかく明るくて、いつもみんなの輪の中心にいるような奴なのだが、
…そんなオープンそうなキャラクターに反して、実は一番謎が多い奴なんだ。
まず、友人連中の誰も、このサハラと学校以外で会ったことがない。
普段何をしているのか、何を考えているのか、そういったことも何も話さないから、
誰も奴のプライベートを知らないんだ。
でも、外で遊んだことがなくても学校ではそれを思わせないほどの友好ぶりで、
アイツと接していると、みんな昔からの親密な友達みたいな感覚になってしまう。
実は何も知らないってことを、つい忘れてしまうんだ。
――俺は、そこがちょっとばかり怖いんだよ。
サハラはイイ奴だ。それは間違いない。100%と言ってもいい。
…けど、なんていうか、
人を自分のペースに巻き込むのが上手すぎる気がするんだよな。
そんなに仲良くない相手とでもすげー楽しそうに盛り上がれるし、
アイツが人から嫌われたり憎まれたりとかって、全然想像ができない。
それを如実に表現しているのが、
何と言ってもあの誰彼構わず振りまく“握手攻撃”だ。
初対面の相手には挨拶として、
仲のいい相手には愛情表現として、
時には上級生や先生方にまで問答無用で握手を仕掛ける時もある。
しかも、一度握ると放すまでが長い。
俺も何度もやられているが、とにかく長いしおまけに強い。
握る力があんなに強いなら是非剣道部にスカウトしたいところだけれど、
何度勧誘しても頑なに断られるからきっとどうしても帰宅部がいいのだろう。
みんな楽しそうだし、俺自身もサハラと居ると楽しいので、
あんまり水を差さないように、口には出さないようにしているけれど…
俺は内心、
アイツがなぜあんなに人の手を握りたがるのか、
なぜあんなに友好的なようでその実誰にも心を開いていないように見えるのか、
人知れず疑問に思っていたりもしていたんだ…。
そして更に気になっていたのは、
そんなサハラが本当に心を開いている相手が、1人だけ居るっぽいことだ。
それが、例の“恋人同士”と噂されている、
2年1組の「阿部みちる」――。
今俺の幼馴染がお世話になっている、美術部の2年ホープだ。
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