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― ep.3 ―(2)
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俺はサハラとは仲がいいけれど阿部とはあまり話したことがない…というよりも、
正直なところ少し苦手かもしれない。
初めてアイツを見た時は、まず容姿に驚いた。
制服を着ていなかったらきっと女性だと思っていただろう。
人形のように整った無機質な美貌に圧倒されてなぜか敬語になってしまった俺を、
サハラ始め周りの友人たちは笑ってくれたが、
当の阿部だけは、冷たい目で俺を一瞥するとさっさとどこかへ行ってしまった…。
最初はなんかお高く止まっている嫌な奴だなと思っていたのだけれど、
サハラを通して何度か顔を合わせるうちに、
別にツンケンしているわけでも
意地悪をしているわけでもなさそうだということが何となくわかってきた。
初対面の時も、
あれは別に冷たい目をしたわけじゃなくもともとそういう顔なだけで、
立ち去ったように見えたのも、
本人的にはもともと通りがかりに挨拶しただけのつもりだったようで、
立ち去ったわけでも何でもなくただ続きを歩いていただけだったようだ。
それを知った時俺は笑ってしまった。
一度納得してしまえば、なるほど誤解されやすい奴なのだということがよくわかる。
なかなか面白い奴じゃないか。
だからこちらとしては、決して嫌いではなく、
どちらかといえば好意の方が強いぐらいなんだ。
……なんだけども。
どうしてもこう…間が持たないというか、何を話せばいいかわからないというか。
二人にされたら俺の方は絶対困るだろう。
そういう苦手意識だけはどうしても拭い去るのが難しい。
けど、今は汐海が美術部でお世話になっているので、
兄貴分としては礼ぐらい言っておくべきだろうな…とぼんやり考えていた。
人間、礼儀を欠いちゃお終いだ!
ちょうどそんな時だった。
こんな見計らったかのようなタイミングで、本人がやって来た。
俺の進行方向真正面から堂々たる風情でまっすぐに歩いて来る。
ほんとにコイツはやる事なす事いちいち清々しいな。
「小川か」
「よぉ。今帰りか?」
「部活だ」
「あ〜、美術部か。どーも、お世話になってます」
「何が」
「1年の椎崎汐海、入って来ただろ? アイツ俺の幼馴染なんだ。
幼稚園から一緒で兄弟同然に育ったから、
兄貴分として挨拶しておかないといけないと思ってたんだ」
「そうなのか。似てないな」
「――ぶはっ!
お前真面目な顔していきなりボケかましてくるなよ!
なんだよ、意外と間が持つじゃないか」
「はぁ?」
笑う俺に、阿部は思いっきり「怪訝です」という顔を向ける。
ほらこれだよ。
なんだかわからんが、こういうところがちょっと可愛いと思ってしまう。
どういう精神状態なんだ俺は。
でもまあとりあえず、考えてたそばから義理を果たすことができたので安心した。
これ以上立ち話をする感じでもないし、…阿部の奴はもう歩き出してるし、
俺も再び自分の部室へ向かうことにする。
本当は少しだけ美術部の様子に興味があるし、
俺が今ロッカー室に向かっているのは、
部員達で回し読みしている漫画の続きを借りに行くだけという用件のためなので、
今日に限ってはこのまま阿部にくっついて美術室に行ってみたい気分でもあった。
…が、さすがに実行する勇気はないからな。
代わりに俺は、自分でも何の気まぐれなのかと思ったが、
振り向きもしない阿部の背中に向かって、
「部活頑張れよ〜」
なんて言ってみた。
すると奴は立ち止まり、振り返って「怪訝です」という顔を再演すると、
またすぐにスタスタと歩き去って行った。
やっぱりアイツ、面白い奴だな。
方向転換をして剣道部の部室へ歩き出した俺は、
もう既に漫画の続きのことを考えていた。
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