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― ep.3 ―(3)
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◆◇◆◇◆
...【side change】
「あ、キミもしかして、新入部員サン?」
…いま、俺はその問いかけに対して返事をしなければいけないんだ。
呆けている場合ではない。
あんまりじっと見つめていたら変な奴だと思われてしまう。
「はい……」
必死に絞り出せたのはこの2文字だけだった…。
しかしこの状況を考えたら、
どちらかというとこの後すぐに俺の方から問いかけるのが自然だろう。
あなたはどなたですか? とか、美術部の人じゃないですよね? とか……
だって普通は俺の立場だったら知らないはずだもの。
…でも、俺はすでに両方知っていて、
それどころか…何度も一方的に目で追ったりしていて……
そして今なんか、
あなたに釘付けになって、
視覚も聴覚も奪われて、
頭が真っ白になって動けなくなっていたんですから……。
そんなこと到底言えるわけがなく、
次の言葉を紡ぎ出すのに困って再び黙り込んでいるしょうもない俺に、
砂原先輩は――こちらから訊くまでもなく、次々と……
「そっか! どーも、お邪魔してます~。
いやー、ゴメンね。俺美術部じゃないんだけどさ。
勝手に知らん奴が部室に居たらそりゃびっくりするよねー。
まぁキミはそれにしたってちょっと驚きすぎな気はするけどね!
いや、全然いいんだけどね、アハハッ。
あー、でもそっか、美術部の誰よりも先に部外者が居るのはナシか。
せめてホントの部員サン方が入場してから入れって話だよねー。
あ、そういう問題でもないか!」
「………」
………
よく喋りますねぇ……。
「あ……あの、えっ、と……」
「あ、俺別に怪しいモンじゃないんだよ!
今日だけじゃなくていつも居るから!
ってそれも怪しいか。
あのね、なんでいつもコイツ来るの?って最初はみんな思うんだけど、
でもそのうちそんなことどうでもよくなっちゃうから大丈夫!
これはね、ホントだよ?」
「………」
…とてもよく……喋りますねぇ………
「ここの美術部、すっごい居心地いいでしょ?
去年のも俺は好きだったけど、真面目すぎるって言って辞めた人も多いし、
キミ達の代はとくに恵まれてると思うよ~。
部長サンはおっとりしててイイ人だし、
よくお菓子くれるけどハズレなしで全部美味しいんだよね!
副部長サンはイケメンで、
ちまちました作業なんかしててもカッコイイとかズルいよねー!
それから、――あ!」
「…んぇっ? は、はい!?」
永遠に喋り続けるのかと思っていたら、
突然何かに気付いたようにとんでもないところで話を止めた。
自由すぎやしませんか……?
――というか、
「(今の流れだったら……次は阿部先輩のこと話すところだったよね?
…それはちょっと聞いてみたかったっていうか、気になってたのに……)」
俺はこの期に及んでまだ天ちゃんの噂話が気になっていたらしい。
…今それはいいじゃないか。一旦忘れよう……!
「俺、名前も名乗らないでベラベラ喋りまくってたね!
ゴメンね、びっくりしたでしょ!」
「あ、…えぇと……はい、少し……」
「自分、2年の砂原ってモンです。
よろしく!」
「――あ………」
先輩が、俺に笑顔を向けた。
遠くから見ているだけだった、親しい人達に向ける惜しみないあの笑顔。
初めて出会ったあの時、
一瞬で魅了されてしまった、あの…――
「(…わぁ……――)」
…そのうちどころじゃない。
今の俺にとっては、この人がここに居る理由など、
すでにどうでもいいことになってしまっていた。
こうして目の前に居て、この顔を見ることができるのなら、
それだけで充分満たされてしまったと…
……少なくともこの時だけは、そう思ってしまっていたんだ。
「じゃ、握手」
「………
…あ、はい! …ん? んぇ?」
「ぷっ、フフッ! 何その反応!
はじめましての握手」
そう言うと彼は、
窓際とドア前という握手するにはまだ少し距離があるうちから、
こちらに向かって右手を差し出しながら近付いて来た。
頭では「まだ早くないか?」と思いながらも、
俺も反射的に、待っているうちから彼に向かって自分の右手を差し伸ばしていた。
数歩程度の距離。
時間にしたらきっと2〜3秒程度の間。
その僅かな時間がスローモーションになった。
いま、触れるんだ。
長い廊下を歩きながら想像していた時と同じ種類の、
けれどそれとは比べ物にならないほどの更に速すぎる鼓動が……
手から伝わって、ばれてしまうんじゃないかって。
…見透かされたらまずい気持ちを抱えているらしい俺は、
必死で自分の胸に大人しくしてくれと懇願していた……。
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