アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
― ep.3 ―(6)
-
「あれ、もうみんな居るの~?
あ、砂原くん久しぶりだねぇ!」
「どーも、お邪魔してまっす」
そのタイミングで部長と副部長がやって来た。
一気に和やかになった美術室で、俺もようやく道具を用意して、
今日もそれぞれがそれぞれの「部活」を始めた。
いつもの美術部の風景だ。
何も作業をしていない砂原先輩が、
誰よりも馴染んでいて一番部員っぽく見えるのも、
これから様式美に見えるようになってくるのだろうか…。
「………」
俺と亜稀が椅子を置く場所はだいたい決まっているけれど、
今日は亜稀が居ないので、所定の位置というのをあまり気にせず、
…俺は阿部先輩の横の位置に座っていた。
横目でちらりと、様子を覗き見る。
真剣にキャンバスに向かう横顔は、相変わらず絵画のように美しい。
何もしていないはずだけど、俺は敵と見なされてしまったのだろうか…?
悪い虫とか…そういう存在になってしまったのだろうか……?
そんなふうに思って、1人悲しくなっていると……
キャンバスに視線を預けたまま、
ボリュームを落としても尚凛とした声が、俺に囁いた。
「今日はあの馬鹿が乱暴してすまなかったな。
初対面で急にあの勢いで来られて、驚いただろう?」
「……
…え?」
予想外の言葉にきょとんとしていると、
先輩は今度は視線もこちらに向けて、小声のまま更に続けた。
「悪い奴じゃないんだが、下級生相手でも加減を知らないから。
君は真面目だし、困っていても何も言えなそうだから少し心配した」
「……」
そう言った声も表情も、思いのほか優しかった。
敵視なんてされているようにはとても見えない。
それどころか、むしろ後輩の俺を気遣ってくれているようだった。
「(敵視されてるっていうわけではなさそうだ…。
でも、やっぱりあの時ガードされたのは間違いないんだよな……)」
だとしたら、もしかして俺だけじゃなくて……
みんなにああいうふうにしてる、…っていうことなのか?
でも、何のために……?
やっぱり、噂が本当だからなのかな……?
俺はよく「想像力が豊か」だと褒められることがある。
普段は素直に嬉しいと思うけれど、今回ばかりは話が別だ。
今、その豊かな想像力のおかげで、
…目の前の1人が目の前のもう1人をガッチリと抱き締めて「独占」する様を、
無駄にリアルに想像してしまったのだから……。
「(怖い……。
けどなんか、芸術的なんだよな……)」
自分は一体何を一人で盛り上がっているのか…。
何だかいろいろと情けなくなってきてしまった。
「――聞いているのか?」
「……
…えっ? あ! は、はいっ! すみませんっ!」
しまった。先輩が気遣って声をかけてくれたというのに、
すっかりボーっとしていた。
「みちるが珍しく優しいから、驚いて固まっちゃってたんだ。
それじゃ仕方ないよねぇ」
「ちちち違います…」
「何だそれは。まるでいつもは怖いみたいな言い方を」
「えーっ? 気づいてなかったなんて、今日は冗談が冴えてマスねー」
「…おや、手が滑った」
「ぁいたっ。ちょっと、絵の具の塊投げないでよ!
うわ、変な色ついちゃったじゃん!」
「よく似合ってるぞ」
「………」
またもや干渉する隙がなくなり、二人の様子をただボケっと眺めていると、
いつの間にか俺の真横に立っていた副部長が楽しそうに訊いてきた。
「なかなか飽きないだろう? あれも去年から続く美術部の名物だ」
「は、はぁ……」
何だかつくづく、中学の時の美術部とは違うなと改めて思った。
「(さて、俺も見てばっかりいないで作業再開しないと!)」
さすがに慣れてきたのか、やっと少しずつ気持ちが落ち着いてきたので、
気を取り直して画板を掛け直し、真面目にスケッチブックに向かう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 36