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― ep.4 ―(4)
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ガタガタンッ!!
――と、椅子が倒れる音がしたと思えば、阿部先輩が血相を変えて怒鳴りながらツカツカとこちらへ突進してきた。
「馬鹿か! 何誤解されるような事を言ってるんだ!」
しん、と静まり返る美術室。
怒りを顕にした阿部先輩の剣幕は相当なものだった。
その場に居る全員が息を飲んで二人のことを見つめている。
阿部先輩のこんな姿、初めて見た。
“通常ならば”俺だって、皆と一緒になって呆然とその光景を見つめていただろう。
(誤解……?)
…けれど今の俺は、正直、阿部先輩を見ている場合ではなかった。
俺はもう、砂原先輩のまさかの発言で頭が一杯だった。
――ゲイだと、そう言ったのだ。
ゲイってことはつまり、つまりそういうことだろう?
先輩は、女の人じゃなくて男の人が好きだって、そういうことなんだよな…?
そういうことなんだとしたら、じゃあ、同性に対して何か《特別な》感情を持つことも、おかしいとか普通じゃないとかそんな風に思うどころか、むしろ自身がそっち側に立っているということで……
一瞬の間に俺の頭はフル回転してこれだけのことを考えていた。
そして、考えるほどに心臓の鼓動がドカドカと音がしそうなほど激しく騒ぎ立てていく。
やばい。
何だ、何だよこれは。
俺は今、何を考えてこうなっているの?
俺は先輩の言葉に、具体的に何を…――
そこまで考えた時。
逆にそんな俺の様子など気にしている場合じゃない人が、
――状況を一転させることを言い放った。
「お前は女子に言い寄られるのを防ぐためにゲイだと言って誤魔化してたんだろうが。それを男子に言ったら全く意味が変わってしまうだろ!」
「え、そうなんですか…?」
身体中を駆け巡っていた熱い血が、…スッと冷たくなったようだった。
「あ〜……うん、まあね」
「まったく…」
(…肯定した、よね……?)
何十秒の間のことだろう。
たぶん、1分も経過していない。
そんな僅かな時間のうちに、ジェットコースターがてっぺんまで上がって一気に落下した。
ちょっと待って。俺は何をしているの?
なぜ自分がジェットコースターに乗って降りてきたのか。
その理由を考えることに、もはや辟易してしまった。
――あーあ…。もうわかってるはずじゃん。
何回同じこと考えてるんだよ。いつまで認める認めないを繰り返すつもりなんだよ。
「ごめんごめん。みちるに怒られたから俺帰るわ。じゃーね!」
明るく手を振って、砂原先輩はあっという間に退場してしまった。
よく考えるとなぜ阿部先輩があんなに激昂していたのかが謎でしかたないけれど、当然今の俺にはそんなことは二の次三の次でしかなく。
「………」
「…?
汐海、どうしたの?」
「………………」
夕方の美術室には、カーテンの隙間から金色の夕焼けが細く差し込んでいた。
光が床に反射して、一際眩しく両目を攻撃してくる一点を瞬きもしないで頑張って見つめていると、
――自分の中で、ずっと待っていた何かがようやく解放された気がした。
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