アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
― ep.5 ―(2)
-
◆◇◆◇◆
…そこまでが、5秒前の俺の所業。
5秒の間に一気に冷静さを取り戻して青ざめている俺の目に映っているのは、部活動真っ只中だった美術室。
何も知らない部長と副部長は勿論、今ここで言ってしまうとは思っていなかった亜稀も大きな両目を真ん丸にして驚いて固まっている。
阿部先輩は………怖くて見れない。
改めて、俺はとんでもないことをしでかしてしまったと実感する。
(……ど、どうしよう………)
『汐海、男たるもの、もしもの時は潔さが一番大切だ!』
(………は?)
その時、耳の奥で響いたのは、子供の頃に俺を立派な日本男児に育てようと張り切っていた天ちゃんの声だった……。
『反省することは勿論大事だが、一度やってしまったことは二度と取り消しが効かないんだ。だから男たるもの、踏み込んでしまった一歩には最後まで責任を持つ! よく覚えておくんだぞ』
(……!
そうだよね、天ちゃん! 俺、男になるよ!)
都合よく聴こえてきた心の声によって、俺は全部天ちゃんのせいにして最後まで突っ走る決意が固まった。
…多分、もう開き直ってしまっていたのだろう。
俯いてしまった顔を、再び彼へと真っ直ぐに向ける。
伝えたい人へ、伝えたい気持ちを、自分の言葉で真っ直ぐにぶつける。
ちゃんと決めたことだ。皆が見ていようと、それは変わらない。
「こないだゲイだって言ってたの嘘だったにしても、俺、先輩のことが好きです!
…初めて遠くで見た時から、多分、ずっと、好きでした……!」
…言ってから、ふと気づいた。そういえば俺、告白したこと自体、初めてだ。
それがまさか同性で、しかもこんなに相手のことを何も知らないままに好きになって、こんな衝動的に想いを告げてしまうなんて。
想像もできなかったよなぁと、妙に冷静さが戻った頭の端で少し苦笑してしまった。
そして、こんな恐ろしいことを告げられた当の彼はといえば。
さぞ困っていることだろうと思っていたのに、……――一瞬だけ何か考えるような表情を浮かべた後――いつもと全く変わらない人懐っこいキラキラの笑顔で、ただ一言、こう言った。
「え、そーなの? ありがと! 嬉しい!」
普通に。
あまりに普通にそんな答えが返って来たものだから、俺もつい一瞬だけ普通に返してしまった。
「ありがとうございます!」
……そして気づいて、慌てて続ける。
「……?
あれ? いや、あの、それで? それで、先輩は俺のこと、どう思いますか?」
「………」
「………」
聞き返すと、彼の顔からゆっくりと笑顔が抜けていった。
初めて見たような気さえした真面目そうな顔は、……そうだ、さっき一瞬だけ見せた、あの何かを考えているような表情だ。
情けないことに俺は、先輩の笑顔以外の表情に慣れていなくて。今更思い出したように心臓がドカドカと騒ぎ始めた。
背中を、一筋の汗が伝った。
この僅かな沈黙が酷く怖くて、最早この場から逃げ出したくなっていたけれど。
それでも彼の射抜くようなアーモンドアイから一瞬も視線が逸らせなくて、彼の方も俺から視線を逸そうとはしない。
この美術室に――いや、この世界に彼と俺の二人しか存在しないような錯覚さえ覚える、互いに言葉もなく見つめ合ったままの時間は、永遠に続くような気がしていた。
けれどさすがにそんなはずはなく。
先に緊張を解いた彼の軽く肩を竦めながらの言葉に、ようやく完全に沈黙が破られた。
「…まぁ、嬉しいと言ってはみたものの……きみ、変わってるよね」
「……?」
時間は戻ってきたけれど、彼の言葉の意味がよくわからず、首を傾げてしまった。
先輩はまだ思案顔のまま、俺に向けてぽつぽつと質問を投げてくる。
…俺は、彼に笑顔が戻らないことがどうしようもなく不安になっていた。
「性別についてはこの際一旦置いといて。俺と、友達じゃなくて恋人になりたいって言ってるんでしょ?」
「はい」
不安なまま、聞かれたことにただ答える。
「…。俺、割と誰とでも仲良くなれるし、友達も多いけど……みんな直感で俺には『何か面倒臭いもの』があるって察知するから、友達にはなっても、それ以上に深い関係にはなろうとしないよ?」
「………」
また、言葉が出なくなってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 36