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― ep.5 ―(5)
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◆◇◆◇◆
...【side change】
部活が終わり制服に着替え、一度教室に寄って忘れ物がないか確認しようと廊下を歩いていた俺は、最近の自分の気のゆるみ方について考えていた。
部活のことだけでいえば、当面は大きな大会も控えていないし、部員の中では自分は特に熱心に練習に参加している方だと思うが、別に部活に青春の全てをかけているわけではない。少しぐらい力の抜けている時があっても、これといって自分を叱責する必要はないと思っている。
しかし最近の俺は、部活中も授業中も休み時間も家に帰ってからも、常にどこかうわの空に陥っている自覚がある。
そこまで深刻なレベルではなく、何となくぼんやりしているというか。何をしていても頭の片隅で何か別のことを考えているようないないような。
そんなすっきりしない感覚が地味に続いているのだ。
最初はそのはっきりしない感じが気持ち悪くて、思い当たる原因を片っ端から洗い直してみたりした。
部内で回し読みしている漫画の展開にモヤモヤしているのが原因ではないかと疑ったこともある。
だけどどれもいまいちピンとこない。
それがこの直後、「そいつ」のあんな様子を見て、一瞬で原因の根本を把握してしまうのだからわからないものだ。
それは、あまりにも似合わないというか……その人物にそのポージングは組み合わせ的に「無ぇな」と思ってしまった。
まぁ、貴重なものを見られたといえばそうなのだが。
「お前でも頭抱えたりすんのな」
「………」
思わず不躾な声の掛け方をしてしまった俺に、一瞬驚きの色を浮かべながらもすぐに不機嫌極まりない顔で睨みを効かせてきた阿部は、緩いウェーブのかかった柔らかそうな髪が寝癖のように乱れていた。
「何の用だ」
「用がなけりゃ声かけちゃいけないのか?」
「用もないのになぜ声を掛ける必要がある」
目が完全に俺を拒否している。
取りつく島なしといった様子に、そっとしておいてやったほうがいいんだろうなと、頭ではわかっていた。
なのに行動に移せないのは、きっと俺自身が、珍しいものを見たという好奇心だけでここにいるわけではなかったからなのだろう。
「用があれば、話しててもいいんだよな?」
そして、口をついて出たのはそんな言葉だった。
「は?」
これも予想通りというべきか、先日向けられたばかりの怪訝そうな顔をやっぱり今も向けられた。
今は廊下に立って見上げている俺が、上階に続く階段に座り込んでいる阿部に見下ろされている状態なので、前回と違い、画的にどこか蔑まれている感があって苦笑してしまう。
俺にM気質があればこの状態のままでもよかったところだが、残念ながらそっちの気はないので、怪訝な視線を受け流しながら階段を上り、同じ段に腰を下ろす。
一体俺は何をやっているのか。
わけのわからない奴だと思われたことだろう。そりゃ自分でもそう思うんだから当然だ。
――なのに、なぜなのか。
これでこいつにすっかり嫌われてしまったとしても、それでも俺はまだここに居たかった。
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