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勘違いと空回りと
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ノートにも吐けない。イライラする。こいつが消えますようにと心のなかで祈るくらいしかない。
「俺さ、孤独だったんだわ、昔」
聞いてもない孤独を語り出すのはなぜだ。気持ち悪い。
「きみとは、仲良くなれるんじゃないかなー、なんて」
「俺はなれそうにない」
勝手な親近感を抱くな、とますます腹が立った。
何よりも、この一部始終の態度は、こっちを逆撫でしてるようだった。ねっとりとした口調といい、大声といい、背が低い癖に無理に見下ろそうとする白目を剥いたような目といい――
見下されているような、絶妙に不快な気分になる。
「いつも、きみは、優しい言葉をかけてくれる」
陶酔したような声が、そんな話を始めたので、俺は困惑した。
「はぁ?」
なんだこいつ……
わかったことが、ひとつだけある。
こいつは、俺をさかなでするのが上手い。
「きみからの言葉があれば生きていけそうだ」
俺は、なにもこいつに、そんなこと言ってない気がするが、気のせいだろうか。
「こっちは自殺しそうだよ」とは言わなかった。
自分を見失ったと自覚したら――
鏡の向こう側から自分についての言葉を鏡が否定するのを聞き続けることになる。ナチスドイツの実験に片足をつっこんでしまった。
直感的に、よくないことが起きているのは理解できる。けれど同時に、頭の中に広がるものを他人に口外することにより、さらに被害を拡大する恐れも過る。
自覚したくない。しない方がいいだろう。
認めたときに「お前は誰だ?」と自分の声で聞かされる毎日に陥るのだ。
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