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なっちゃん
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翌朝。
「ごめん、なっちゃん」
出会い頭にそう言った俺に、なっちゃんがかじりかけのクリームパンの欠片を、口からぽろっとこぼした。
どうにか登校したけれど、俺の心はもう干上がって嬉しいとか楽しいとかがただ黒く塗りつぶされている。
誰かといれば、そいつを殴り付けるだけだろう。
昼休み。
校庭では、生徒が元気にサッカーをしている。
サッカー部じゃないやつも入っていたり、応援していたりして、うちのクラスの仲のよさに感心。
それを、眺めながら俺は言う。
「今日、遊ぶやくそく、パス」
なっちゃんは不思議な顔で首をかしげている。
「なんか用事?」
「うん。少し、勉強することがあって、集中したいから」
「わかった」
隣になっちゃんがいるのに、俺はぼんやりしていて脳内では、河辺を殴り付けていた。
本当に恋人になんかなれるだろうか。
一抹の不安がよぎったが無くした気持ちの大きさを思えば、たいしたものではない。
カウンセリングを受けるよりはただ大事な誰かのそばにいたいけれど、その誰かのそばにいても、楽しいとか嬉しいはやってこないということは、想定できる。
思えば自分に自信を持たせてくれたものを無くしているのだ。
自信もなく、心を『楽しみ』にされるという異常事態。
誰もいない昼休みの教室はすいていて、電気のついてない部屋の明かりは窓の日光だけ。
普段は落ち着く静かな空間が、やけに落ち着かない。
「いま流行ってんの!」
クラスの女子の一人が、知らない女子と話しながら教室に入ってきた。
「あぁ、ネット小説でしょ、カンベなんとかっていう人」
「そうそれ!」
いつもは風景みたいに気にしない言葉だ。
机に頬杖をついていた俺は、ゆっくりと、隣のあいた席に座ってたなっちゃんを見つめた。
「なに」
「なんでもねえ」
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