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ただ、それ以上機嫌が悪くなることはない。
なぜならあいつには『武器』があったのだ。
最低な武器が。
「『祭があった日に、海に来たことがある』んだよな」
河辺が言った言葉は、俺のトラウマをなぞることば。
笑顔で、それを放った。
「それは」
誰にも見せてなくて、筆者が俺だと誰にもいっていないノートのものだった。
俺の脳裏に沢山のことが浮かんだ。
養育費を払いたくない父が、俺を勝手に死んだことにしていたこと。
生きている俺が邪魔で、あの手この手で妨害を試みて、親戚中に手を回したこと。
嫌な噂を、あちこちに流されたりもした。
それを海に来ていた知人が話してくれたことを、思い出したときにノートに描いたものだった。
「祭が、嫌いなの? 祭が」
笑顔で、その言葉を繰り返すから俺の表情はひきつっていく。
周りには俺が何によってこの表情なのかはわかることはない。
しかし俺はフラッシュバックによって苦しめられていた。
「祭の話は、ここではやめてくれ」
と言えればいいのに、俺は、呼吸が止まってしまわないようにするのが精一杯だ。
部員の一人が、思い出したように「あ、祭って言えば、カンベの小説で、屋台に行くシーンが」と、話始める。
やめろ。あいつの小説の話なんかするな、あれは俺のトラウマなんだ。
「――あのこと。みんなに、言っちゃうよ」
カンベこと河辺が、ぽんと肩を叩いてにやりと笑った。
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