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「誘ってくれて嬉しいよ」
その影は、幼馴染みの昴生だった。
提灯ひとつないこの暗闇の中でも、涼しげで凜とした顔立ちなのがわかる。
「……浴衣、似合ってるね」
そう言いながら、昴生が僕の右隣に腰を下ろす。
「もしかして、俺の為に着てくれたとか?」
「……ば、ばか」
口を尖らせて視線を外すと、昴生が笑顔を浮かべた。
「……花火大会の日も仕事なんて。彼女、忙しいんだね」
「……」
「玲央…?」
首を傾げ、切れ長で二重の瞳が僕を捕らえた。
その左目の下、頬骨辺りにある小さな黒子は、この闇の中では殆ど見えない。
「……なんかね……他に付き合ってる人が、いるみたい……」
「どういう事?」
「最近、あんまり会えないし
……キ、キスも、してくれなくて……」
辺りが暗いせいなのか。
普段昴生には言わないような内容まで話してしまっている事に、後になってから気付いて焦る。
「……ふぅん」
そう言って僕から視線を外した昴生は、持っていたビニール袋からペットボトルを取り出した。
「ほら」
「……ひゃ、っ!」
それを頬に押し当てられ、変な声が出てしまう……
「ははは」
「……昴生の、ばか」
声を出して笑う昴生の手からそれを奪い、飲み口を開ける。
そしてそれを飲もうとして、昴生の端正な横顔をチラリと覗き見た。
「……」
それは、三カ月前──
密かに昴生に想いを寄せていた僕は、誘われてついて行った写真展で大地と出会った。
モデルにならないかと声を掛けられて……昴生には内緒で、引き受けた。
……それから、大地に色んな写真を撮られていくうちに、僕は──
「……ん?」
僕の視線に気付いた昴生が、僕の方をチラリと見る。
その流し目に、不覚にもドキッとさせられしまい……慌てて視線を逸らす。
「玲央、……今まで撮ったお前の写真、見る?」
「……え……」
それは、ユーレイ部員でもある写真部の昴生が、事ある毎にスマホで僕を撮ったものだった。
今まで僕が見せてと言っても、絶対に見せてくれなかったのに。
「……み、見せたいなら、……見てあげても、いいよ」
「……はいはい」
ポケットからスマホを取り出し指先で操作した後、昴生は僕の前に画面を寄越す。
と同時に、肩に触れる程に昴生が身を寄せ、光の放つその画面を一緒に覗き込んだ。
弁当を食べている姿や、教室の席に座って窓の外を眺めている姿など、日常のひとコマを切り取ったものばかり。
「……これなんか、俺は好きなんだけどね」
画面をスライドさせた昴生の唇が、綺麗な弧を描く。
「……え、」
それは──
教室で、体操着を脱いでいる瞬間のものだった。
クロスさせた腕。
背筋を伸ばし胸の高さまで裾を捲り上げ、肌が露わになった僕が、斜め後ろから写されていた。
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