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律儀なヤクザ
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朝、ピーチクパーチク騒ぐ鳥の鳴き声で目が覚めた。
ボーっとなりながら昨日のことを思い出す。
えーっと・・・、何だっけ。
確か・・・数日前から追われていた借金取りの極道さんから逃げてた→追い詰められた→なんかキレた→キス
・・・アレ、何だろう、冷静になっても理解ができない。
特に最後の方。
「・・・そうだった・・・ヤクザの男にファーストキス奪われて逃げてきたんだった・・・」
朝から一気にげんなりする。
疲れがとれねえ。
いやあ、いっそ夢だったら良かったんですけどねえ。
つか、これ家に逃げ帰ってきても・・・あっちにこの家知られてたよな・・・。
「・・・意味ねえ」
ピンポーン
「!?」
突然のピンポン。
インターフォンがなった。
嫌な予感しかしない。
つかびっくりして一瞬息止まったわ。
そっと玄関まで足音を立てずに向かう。
その時の姿はもう、忍者に特待生でなれるくらいのものだった。
転職しようかな。
ドアの向こうから声は聞こえない。
「・・・」
ソロっと、覗き穴・・・ドアスコープっていうの?アレを覗き込む。
「・・・」
当たり前のごとく、そこには昨日のヤクザ男がいた。
一人だ。
タバコを吸いながら、何も言わずにドアを見ながら立っている。
これ、開けないといけないだろうか。
居留守使っちゃダメだろうか。
「・・・ん?」
ぼーっと、(現実逃避気味に)外を見ていたら、男が懐から何かを取り出した。
「!!」
急いでドアを開ける。
「あ・・・」
「ど、どうも・・・」
俺の唇を奪った男と昨日ぶりに対面してしまった。
<***>
「・・・今日は話があって来た」
「・・・はぁ」
アパートの一室、小さな卓袱台(ちゃぶだい)を隔てて俺は男と向かい合う。
今日は何というか大人しめだな。
いや、ドア向かいで爆竹出したやつに言うことでもないけど。
あんなとこで爆竹鳴らされたらいよいよ追い出される。
このアパート、ボロいし、壁薄いけど、ご近所さんは親切でいい人ばっかだからな。
ここ追い出されると本気で困る。
「・・・悪かった」
それは何に対する。
身に憶えのない借金のことにでしょうか、追いかけたことに関してでしょうか、それとも俺のファーストタッチ(唇)を奪ったことについてでしょうか。
「あの借金はどうやらこっちの勘違い、というか人違いだったようだ。・・・すまない」
「ああ、そっちですか」
個人的にはキスに対して謝罪してほしい。
こんなもんトラウマなるわ。
「・・・このアパートに元々住んでいた奴の名前が『小谷』だったんだ。昨日の夜、『組』のやつが見つけてきた」
なるほどなぁ。
すげえ偶然だけど。
「俺も児谷ですからねー、そんなこともありますよアハハ」
笑えるか。
そんな偶然で追いかけられた俺の身にもなれ。
おかげさまで学校にも通えなかったんだぞ。
「カタギのお前を巻き込んで本当に悪かった、この通りだ、赦してやってくれ・・・次第じゃ指詰める覚悟だ」
「いや良いですって。・・・もう関わらないでくれれば・・・」
そんなことされたら、それはそれでまた追い出されるしな。
変な事故物件みたいになったらどうしてくれる。
「・・・そうか・・・、その、それで、だな・・・」
まだ何かあんのか。
しかも歯切れの悪い。
「なんでしょうか・・・」
「・・・その、昨日・・・俺がしたこと、憶えてるか・・・?」
「・・・それはええっと」
「き、キスだな」
人が!せっかく!!忘れようとしていたことを!!!!
「えー、えっと、そんなことありましたっけ・・・ハハ」
乾いた笑いが出た。
男は
「憶えてないのか・・・?」
そう、俺の顔を見て訊く。
・・・どこか、寂しそうな顔で。
「・・・はぁ・・・まぁ・・・」
忘れられるか、トラウマになるっていってんだろチクショウ。
いつか、可愛い女の子を連れ込もうと思っていた我が城に、最初に入った人が俺のファーストキスを奪った極道の男って。
あれ?
涙で前が見えないや。
「あ、あんなことしたんだ・・・しかも、お前もファーストキスだったんだろ・・・?」
『も』って言うな。
こっちは被害者だ。
「だから、責任を取ろうと思うんだが・・・」
「はい?」
責任って何でしょうか。
「俺と、付き合ってくれないか。後悔は、させないつもりだ」
・・・。
・・・・・・。
え、えぇええええええぇえ・・・。
「えーっと・・・え?」
「もちろん、別の方法で責任をとってもいい。その時は指を詰」
「詰めなくていいですから」
何でこんなに指を詰めようとするんだ。
新しいトラウマを植え付けるつもりか。
つーかさっきから関わらないでって言ってんだろ。
「本当に良いです!!こんな一般人が・・・高校生が・・・その・・・ソッチの筋の人と繋がってるって知られたら・・・ほんっとうに困りますから・・・もう、関わらないでください」
正直な気持ちを打ち明けてみた。
「・・・そうか。・・・そう、だな・・・本当に、悪かった」
「分かりましたんで・・・どうぞ・・・」
そっとドアの方を示す。
男は無言で立ち上がると、玄関から出て行った。
最後に俺の方を見て。
<***>
バタン、とドアが閉まって、やっと息を吐きだした。
ホッとした。
まあ、人違いだったらしいから、これで日常生活に戻れるだろう。
明日から学校に行こう。
何か部屋にタバコのにおいが残ったな。
この部屋では吸ってなかったけど、体中に染みついてんのか。
タバコどころか血痕とかついてそうだけど。
それにしても、あの人はその・・・おホモの方なんだろうか。
でも、突然だったしな・・・。
それ以前は普通に俺に危害を加えるためだけに存在してたようなもんだったし。
殺気を感じたのはあれが初めてだな。
あんな目つきだけで人殺せそうな人に好かれるなんて何かの間違いだ。
あの人も多分、極道生活で疲れてたんだろう。
それで何か幻覚でも見えたんだろう。
ブラック企業っぽいもんな、いろんな意味で。
早いところ転職なさることを願うよ。
例えば忍者なんていかがだろうか。
しかしながら。
やっと解放されて、もう二度と会うことのない存在だと思っていたその男とは、割とすぐに再会することになるのだった。
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