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その極道、純情につき
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「起きてー、朝だよー」
その言葉と共に、俺は強制起床させられる。
これが可愛い女の子なら最高だったけど、そんなに現実は甘くない。
そういえば、高校の友達が
「幼馴染と恋愛とかあんなのフィクションだから」
って、遠い目をして言ってたな。
アイツに何があったんだろうか。
生憎(あいにく)俺にはそんな相手いないから関係のない話だけど。
・・・いやいや、そうはいっても
美人な隣人ならいるわけで。
今ここに。
目の前に。
俺の布団を掴んで、したり顔で立っている方がいらっしゃるわけで。
別に、隣人が家に不法侵入しているわけではない。
そんな漫画みたいなことあってたまるか。
危機感なさすぎるわ。
さすがに俺も寝るときは家の鍵を閉める。
というか久我さんというセコムがいるので。
変な泥棒とか一発で仕留めてくれると思うよ。
で、だ。
なんでその隣人がここにいるかというと、だ。
答えは簡単で、この部屋が隣人の部屋だからである。
昨日、部屋の前で半ば泣き落としされて、久我さんもろとも柏原さんのお宅に連れていかれた。
無傷のはずだけど、
一応怪我がないか見られて、
たっぷりお灸を据えられ、
一日泊まることになった。
「・・・あれ、久我さんは?」
俺の同居人の姿がない。
昨日は一応ここに一緒に泊められたはずなんだけど。
いや、でも、昨日柏原さんそれこそ殺すんじゃねえかっていうくらいのお説教を久我さんにしてたからな。
大丈夫だろうか。
風呂場とかで血だらけになってたりしないだろうか。
「バイトに行ったよ」
大丈夫そうだ。
というかもうバイトに行ったのか。
俺の隣に綺麗にたたまれた布団を見ながら思う。
「ここ数日行けてなかったからって。ほら、あの人、ゆーすけくんと暮らすために働いてるとこあるからさ。お金を入れないと一緒に居られないと思ってんだよ。全く律儀というか、何というか」
柏原さんは久我さんのことをよく思っていないので、嫌そうな顔をして言う。
いつものことである。
「今日は5時まで帰らないそうだよ」
何時間労働してんだあの人。
それこそ身体壊しかねないぞ。
「・・・っていうか今何時ですか?!」
「10時」
「oh・・・」
遅刻じゃねえか。
「もっと早く起こしてくださいよ・・・」
じとり、と柏原さんを見る。
いつも何時に出て行ってるかとか知ってるはずなんだけどなあ。
「ふふ、いいじゃない。今日は俺と一緒に居てよ」
「でもですね、出席日数とか・・・」
「ま、大丈夫だって。いざって時は力貸すからさ。それに俺、まだちょっと怒ってるんだけど?」
それは大変だ。
昨日のカシハラーはもう御免だ。
昨日のカシハラーって。
対義語は今日のわんこかな。
「もう・・・本当に、一人で抱え込んだりしないでね」
柏原さんは笑って言う。
泣きそうな笑顔だった。
この人は心の底から俺のことを心配してくれてるんだなあと、何だか心の奥のほうがぽやーっと温かくなる。
愛されている確証、だ。
青い鳥はこんな近くにっていうあれかな。
「今日はゆーすけくんを構い倒すって決めてたんだから・・・覚悟してよね」
柏原さんがそう言いながら、俺を柔らかく抱きしめた。
無抵抗だ。
「・・・お好きに」
まあ、こういうのは嫌じゃないので。
むしろ、ありがたいので。
何だか温かく甘めの空気が流れていた。
<***>
(久我side)
「ゆーすけくんに害を成すなら、近付かないでよ」
朝、バイトに行こうとした俺に投げかけられた言葉が、ずっと頭の中を回っていた。
アイツの害になるのなら、確かに俺は・・・。
アイツの幸せを願うために、俺が身を引くことには躊躇い(ためらい)はない。
なかったはずだった。
でも、気付けばそれを嫌だと思う自分がいた。
いや、元から存在していた感情だろうが。
気付かないふりをしていただけで。
それが出来ないほどに膨らんでしまっている今。
アイツがいない毎日は想像できない。
想像したくない。
そんなことを女々しく考えてしまって。
「久我さん、これお願い」
「・・・あ、はい」
バイト中だ。
集中しなければ。
だってこれは、アイツと居続けるための手段で。
気休めで。
おまじないのようなものなのだから。
アイツの傍にいるための理由付けなんだから。
ニコリと営業スマイルを浮かべる。
それもこれも、アイツと笑える日々のためだ、とか。
そんなこと、アイツには口が裂けても言えないけど。
アイツのためなら何でもできる。
何でもするから。
まだ、もう少し。
アイツと笑っていられる毎日を。
願ってもいいだろうか。
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