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ちゃんとしたツンデレ
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「・・・おじゃまします」
「はいどーぞ」
俺の部屋に久我さんと柏原さん以外がいるなんて、ちょっと新鮮だな。
あんまり人をあげることがないから、何だか友達っぽい行動に若干テンションが上がる。
が、相手はあくまでも東谷だ。
オクビにも出さない(二回目)。
「とりあえずパパッとやっちゃおうぜ」
「お、う」
部屋の中心に置かれた机の上に紙を広げ、座布団の上に座ってから、部屋の隅のほうで小さくなっている東谷に気付いた。
口数も少ない。
「何してんだよ、早く」
「ああ、うん」
机を挟んで正面の座布団に顎をしゃくる。
おずおず、という感じで正面に座った東谷を見てまた笑ってしまう。
「何緊張してんの」
「別に・・・そんなんしてへんけど」
借りてきた猫って感じ?
すげー大人しい。
「ま、いーけど。えっと、書き直せばいいんだよなー」
そんなこんなで、いつもよりもかなーり静かな東谷と一緒に作業を進めていって、2時間後。
「終わった!!!」
「疲れた・・・」
やっと終わった。
かなりはかどったな。
ちらりと時計を見ると夜の7時を指していて
「腹減ってきた」
そう言えば、東谷も俺と同じような顔をしていた。
腹減ってる顔だなw
その時だ。
「ゆーすけくん、今日、夜ご飯・・・」
インターフォンという存在は、どうやら認識されていないらしい。
もしも彼女とか連れ込んでてイチャイチャしてたらどうしてくれるんだ。
・・・まあ今のとこないけど。
言葉と共にドアを開けてきたのは、隣人の柏原さんである。
・・・鍵がかかってたらどうしたんだろう。
漠然とした恐怖に襲われている俺の隣で、更に怯えた表情を浮かべているのは東谷である。
そりゃそうだ、いきなりクラスメイトの家に知らない人がピンポンもせず当たり前のように入ってきたら誰だって怖がるわ。
つか、家主ですら怖がる案件なんだって。
「え、誰・・・その子」
「え、えっと・・・」
そりゃ東谷のセリフだろ、と思いつつ、動揺している東谷に代わりちゃんと説明する。
「俺のクラスメイトで、今日は学校の課題を一緒にやってたんですよ。あ、東谷、お隣さんの柏原さん」
「へえ、東谷くんっていうんだ。よろしくね」
「あ、はい」
ニコリ。
柏原さんの笑顔を見て、より一層怯えた表情を浮かべる東谷だった。
「それで、ゆーすけくん。彼との関係はクラスメイトってことでいいんだね?」
「え、まあ。クラスメイトっていうか、ペアワークの相手というか、友達?」
「・・・!」
俺のその言葉に東谷の目が一瞬見開かれたのを見てしまった。
俺だけがそう思ってたパターンだろうか。
たまにある、友人とそれ未満の線引きが食い違ってるパターンかこれ。
うわ、へこむ。
「へえ、友達、ね・・・。まあいいや、『アイツ』よりマシだろうしね」
久我さんのことだろうな。
あんまり久我さんのこと名前で呼ばないよな、柏原さん。
「あのう、それで柏原さんはどうしてウチに?」
まあくよくよしてても仕方がないので、本題に戻る。
「あ、そうそう・・・今日ご飯どうするのかなって思ってさあ。折角アイツがいないから、一緒に食べようかなと思ったのに、まさか『友達』を連れ込んでるなんてねえ・・・」
柏原さんの黒い冷気が、俺→東谷の順でぶつけられたのを感じた。
最近分かるようになってきた。
これもフェロモンの恩恵(?)だろうか。
うわ、怒ってる・・・。
もう、この人の怒りがどこで発生するのかマジでわからん。
めちゃくちゃ怖いわ。
「東谷くん、だっけ。俺、ゆーすけくんとはねえ、結構面倒見てたりするくらい仲良しなんだよねえ。ご飯作ったりしてさ」
そう言いながら、まるで見せつけるように俺の肩を抱いた。
ちなみにここは玄関先である。
「ちょ、ちょっと柏原さん」
「ん?恭平さん、でしょ・・・?」
ほぼ圧力だ。
そして耳元で喋るな・・・。
「ん・・・ぁ」
「ふふ、可愛いなあ・・・」
吐息を多く含んだ話し方だ。
耳にダイレクトで来る。
そしてそれが直で腰に来る。
身体の力が軽く抜けた俺を、柏原さんは支えて、俺の正面から肩を抱く。
「ちが、こんな、の・・・」
この光景を、東谷はどんな気持ちで見せられてんだ。
「耳、弱いもんね。悠介くん」
「んぁ・・・やっ・・・!」
びくりと身体が震える。
本格的に立てなくなってきた俺を、面白そうに柏原さんは支えなおした。
そんなことより解放してほしい。
生理的な涙を浮かべ、上目で柏原さんに助けというか、許しを乞う。
何に対する許しかとかはもうこの際どうでもいいのだ。
だってそんなのこの人には通用しないんだから。
「はぁ・・・はぁ・・・かし、きょ、へさん・・・」
「ん?なあに?」
「ごめ、なさい・・・俺、何かしたなら・・・謝りますから・・・あぅ・・・ふっ・・・く」
その言葉に、より意地の悪い笑みを浮かべて、柏原さんは何を思ったか俺の耳にキスを落としてきた。
耳が弱いので、その行動は甘ったるい拷問に過ぎないんだけど。
「ひっ・・・あ、やだ、やだぁ!!きょうへ、さん、やだ、許して・・・やっ・・・!!」
ぎゅっ、と柏原さんの胸元に縋りつく。
そうでもしないと腰が抜けそうだったから。
「ま、このへんで許してあげようかな」
そういって、柏原さんは俺(の耳)をやっと解放し、ニコニコと爽やかな笑みを浮かべた。
威嚇以外の何ものでもないが。
そして今までの一連の下りは、恐らくセクハラになる気がするのだが。
「東谷くん」
「・・・ぇ、あ、へ・・・?」
今まで、放心状態というか、ぼぉ・・・っとしていた東谷が、ここでやっと我に返った、というか返らされた。
「悠介くんの『友達』として、これからも仲良くしてあげてね・・・?」
そういうと、柏原さんは何事もなかったかのように帰っていった。
結局晩御飯はどうなってしまったんだ。
嵐が過ぎ去ったみたいだ。
呆然としている東谷と、悄然(しょうぜん)としている俺が部屋に残された。
しかも俺は若干腰が抜けてしまっているままで。
「・・・あ、えっと・・・その・・・東谷・・・?」
気まずい。
めちゃくちゃ気まずい。
隣人に良いようにされたとこをよりによってコイツに。
絶対軽蔑される。
東谷だもん。
東谷は何も言わない。
しかし、その目が何だか既視感を覚えるもので。
・・・あ、この目。
久我さんが俺にキスしたあの時の目だ。
その他の極道が貞操奪おうとしてきたあの時の目だ。
ってことはもしかして、また・・・?!
「あ、あずまや・・・!!」
ゆらゆらとゾンビみたく近付いてきていた東谷に大声で制止の言葉を投げる。
この声で、また柏原さんが来るんじゃないかとも思ったけど、まずは目の前の危険を排除せねば。
しかしながら、東谷はその一声だけで
「ハッ・・・!?」
我に返ってくれた。
誰にでも発動してしまうらしい要らない能力を呪いながら、ホッと胸をなでおろす。
「ごめんな、変なの見せちゃって」
素直に謝る。
誰得でもない光景だった。
「え・・・いや、ちが・・・」
「俺のこと、また嫌いになっただろ・・・キモいって・・・ごめんな」
「ちょ、」
「でも明日でワーク終わるし、それまでの辛抱だから・・・だからもうちょっとだけ・・・」
「違う(ちゃう)!!」
「へ・・・?」
突然の大声に、思わず顔を見上げる。
「そうやなくて・・・」
東谷は、何か迷うような素振りを見せたが、やがて決心したように俺の顔を見てポツリポツリと話しだした。
「ちゃうねん・・・。俺、こんな性格やから、今までろくに友達とかできんかってん。でも、お前はちゃうかった。そら、ペアワークやからってのもあると思うけど、それでもちゃんと俺と喋ってくれたし、笑ってくれたし、何よりも、俺のこと・・・『友達』って・・・」
え、いや、まあ。
言いましたけど。
で、それで驚いてましたでしょ、あなた。
「そらビックリするわ。俺だけ・・・俺だけがそうやって・・・『友達』やって・・・友達になれたらええなって、思ってると思ってたんやから・・・」
え、何。
コイツ今なんて。
え、何そのツンデレ。
「謝るんは俺の方や・・・こんな態度しかとれん俺やけど・・・でも、できるならこの課題終わっても、話してくれたら・・・嬉しいっていうか・・・いや、ええわ・・・そんなに望まへんから。でも・・・『じゃーな』って、それだけ、言ってくれたら・・・嬉しい」
聞いてたのか。
いつも反応しないからアレだったんだけど。
っていうか何。
本当にどうした。
「言う。言うに決まってる。っていうか俺の方こそ、これからも『友達』で、いてほしい」
食い気味に言うと、東谷はまた驚いた顔をして、でも今度は笑った。
初めて見る表情だった。
「もちろん」
その後、ぐすり、と鼻をすすって、東谷は言った。
「俺帰るわ。飯、家にあると思うし」
「あ、そっか・・・うん、気を付けてな」
「分かってる」
「じゃあ、またな。『やた』」
その言葉に、東谷がピタッと止まる。
「な、何て・・・?」
俺は苦笑した。
「やた。弥太郎だろ?だからやた。嫌?」
「い、嫌じゃねえけど、そんな・・・友達っぽいだろ・・・」
それがいいんじゃねえか。
また俺は苦笑する。
「・・・じゃ、な・・・悠介・・・ってやっぱアカン恥ずすぎるわ!!」
言い捨てるように叫んで、東谷改めやたは帰って行った。
明日、学校で会ったら。
俺は勝手にほころぶ口角を自覚して、また苦笑するのだった。
<***>
(弥太郎side)
俺は昔から天邪鬼で、特に同い年くらいの相手には顕著だった。
それがすごい嫌で、友達を作りたくても、どうしても悪態をついてしまうことを呪った。
そういうのをやめたくてしょうがなかった。
でも、アイツは違う(ちゃう)かった。
そんな俺ごと受け止めて・・・『友達』って言いおった。
それが凄い嬉しかったんや。
やから。
明日朝、今度はちゃんと『おはよう』って言おう。
だって、それが友達やろうから。
・・・それにしても。
あの時の児谷、おかしかった。
いや・・・ちゃう。
おかしかったのは俺の方や・・・。
隣人らしいあの人に触られてる時の児谷が、なんであんなに・・・。
こんなん友達に抱く感情なんやろうか・・・。
あと、あの隣人。
俺を見るとき、全然目が笑ってなかった。
そういうのには敏感やからすぐ分かるんやけど。
あの時の目を思い出して、俺は帰路、一人で身震いした。
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