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小学生の頃は言えた魔法の言葉
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いつも通り、(元)極道が住まう我が家を出て、お隣さんと共に通学路を歩き学校に行く。
そう、いつものことだ。
どんなに活字で見て意味不明でも。
ちなみに柏原さんは大学生である。
今更な情報だけども。
詳しい年齢は知らないけど、どうも浪人したらしい。
柏原さんは頭がいい人なので、多分だけど学力的な問題でどうこうとかじゃなくて、自分の意思でそうしたっぽいけど。
で、そんな柏原さんとは授業のコマの時間が合えば、こうして途中まで一緒に登校することになる。
最初はこの隣を歩くイケメンと、それを見つめる女子の視線にあてられて居たたまれなかったけど、今は慣れた。
というかイケメンが近くにいるという現状に慣れた。
で、学校。
「おはよー、おはよ」
「あ、おはよ」
教室の扉の近くにいた友人に声をかけながら自分の席へ歩く。
道中昨日のテレビがどうとか、あの話がこうとかそういうのをちょこちょこ話しつつ。
そして、自分の席についてからの
「おはよ。やた」
「ッ・・・はよ///」
ニッ、と笑いながら隣の席の彼に声をかける。
天邪鬼ながらに、根は律儀なので、照れながら返事がくる。
そしてその瞬間、教室がシン・・・と静まり返る。
え、そんなに驚くことだろうか。
それは何に対しての驚きだろうか。
おはようって言ったことに対して?
それに返事したことに対して?
俺の呼び方に対して?
照れながらも微妙に素直(当社比)なやたに対して?
「いや、全部だよ」
後で友人が言っていた。
やっぱり人を寄せ付けにくい感じで接してしまうやたに対して、みんな最早諦めにも似た思いがあるから、もう孤立しようがどうでもいっか、みたいな感じになっていたらしい。
で、そんなやたと話している俺がやっぱり不思議で仕方がないらしい。
「何をどうしたらそういう風になったんだ」
「先生が暴言を吐いたから。あとお前らが裏切ったから」
笑顔で言ったのに、友人の顔が引きつった。
「その節はマジですまんかった・・・」
平謝りされた。
「・・・いいよ。そのおかげでやたと仲良くなれたんだから」
あの時ペアワークで一緒にならなければ、俺もやたを誤解したまんまだっただろうし。
そう思えばありがたいことだったのかもしれない。
一人でも友人は多い方が良いだろうから。
それにやただって、俺一人、友人としていれば良いんじゃねえかな、なんて。
驕った(おごった)ことを思ったりしながら。
「それにしてもそのあだ名・・・東谷、よく許したな・・・」
みんなの中のやたのイメージって結構気難しいキャラだよな。
いや、実際そういう感じではあるけども。
でもそれが本質ってわけではないから、根は優しくて律儀で真面目なやつなんだけど。
まあそれをこいつらに言っても分かんないだろうし、伝わんないだろうし。
俺だけがそれを知ってるって思えば何だか優越感あるしな。
「ふ、ふふww」
「・・・何笑ってんねん、キモい」
「キモいって言うな、キモいって」
「じゃあ気持ち悪い」
「何が変わったか」
昼休み、中庭。
やたと一緒に昼ご飯を食べている。
天気もいいし、今日は一段と俺の機嫌もいい。
そこに容赦なくやたはいつも通り暴言をくれるんだけども。
それでもそれにはもう慣れたもので。
「そんなこと言って、俺以外に一緒に食べる奴いねえだろ?w便所飯回避なんだから有難く思え」
「いや別に頼んでへんやん」
「じゃ、明日から一人でどうぞ?」
「・・・ええわもう、分かったわ・・・」
ある程度やたの扱いにも慣れてきた。
天性の天邪鬼で、本人にも制御できないレベルなんだから、それを逆手にとるしかあるまい。
話してみれば結構話しやすいやつだし、軽口にも付き合ってくれるから、面白いやつなんだけど。
やっぱ第一印象がなあ。
なまじイケメンなだけに、難のあるイケメンってちょっと取っ付きにくいよなあ。
「・・・お前のそれ、自分で作ったん?」
やたが俺のお弁当を見ながら言う。
素直に答えても良いけど、やた相手だと俺も何だか軽口を混ぜるのが癖みたいになってきてて
「お前って誰?」
っていう、最初の頃にもやったよなこの流れ、みたいなことをしてしまう。
まあ、こう言えばやたは仏頂面ながらに
「・・・児谷」
と言うのだけども。
「児谷より、『悠介』って呼んでくれないの~?あの時みたいに」
そう言えば、何を思い出したのかボボッと音がするくらいに赤くなったやたが
「うっさいわ質問に答えろアホ!」
と罵ってきた。
ヒドイ話だ。
「俺じゃねえよ、同居人」
「え・・・?同居・・・?」
その答えに分かりやすくうろたえるやた。
まあそうなるよな。
高校生の一人暮らしに同居人って、いかがわしさ120%じゃね?
いや、ド健全なんですけども。
元極道であることを除けば。
そもそもやたが俺の部屋に来たとき、久我さんいなかったから(つかそのタイミングを狙ったし)そうなるのは当たり前なんだけど。
「そ、同居人。色々あってさ~。そういえばこの話友達にするの初めてだな・・・」
またやたが赤くなる。
友達って言葉につくづく弱いらしい。
「そ、それってどういう・・・」
一瞬、恋人がいるみたいな感じにしてやろうかとも思ったけど、やた相手にそんなことしたら、バレた時今までないくらい罵られそうだしやめておいた。
「別に事の成り行きでそうなっただけっていうか・・・健全な関係ですケド・・・?」
正直者である。
「なんで事の成り行きで同居することになんねん・・・え、家族とか親戚とかでもなく・・・?」
「違うな。一切の血の繋がりがない他人です」
「え、え・・・?」
更に混乱しだしたやたを見て苦笑する。
いつかちゃんと説明しなくちゃな。
でも今言うのは早い気がする。
ので、適当にぼかしておくことにした。
「ま、そんなことは置いといてさ。その人すげー料理上手いんだよ、つか家事全般すげえ人だから。ほら、この卵焼きとか。食べてみろよ?」
混乱したまま、明後日の方向に行ってしまっているやたをこっちの世界に呼び戻すのも兼ねて、俺は久我さん特製卵焼きを箸でつまみ、
「あ~ん?」
と、口元に運んでやった。
「・・・・・・ッえ、お前!?」
やっと帰って来たやたが、時間差で飛びのいた。
そんなに驚くことだろうか。
これだから友達のいないやつはw
「え、ええん・・・?」
「いーよ。むしろ食べてほしい。美味しいから」
やたは遠慮がちにしていたが、それでも
「じ、自分で食えるから・・・!」
とか言い出す。
しかし俺はそれを許さないw
何故ならこんなに慌てるやたを知っているのは多分俺だけだからな!!
教室でやったら、また静寂に包まれるだろうなw
「いいからいいから。口開けろ」
「ええってホンマ!!///」
しばらく攻防が続いたが、絶対に折れてやるものかという俺の強い意志に負け、やたは諦めて俺の箸から卵焼きを食べるのだった。
「え、うま・・・」
「だろ」
それにしてもあの天邪鬼なやたが素直に感想を言う卵焼きって。
やっぱ久我さんって・・・。
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