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学業って理不尽な気がする
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ガチャリと後ろで扉が開いて、そして閉まった。
そして俺の方に向かってくる足音を聞きながら、俺は卓袱台(ちゃぶだい)に広げた紙を見る。
ボロアパートらしく、人が近づいてくると自然床が沈んで変な感じだ。
その感覚も、最近少し慣れだしたけれど。
俺の部屋に別の人がいるという環境に。
それは、今更ながらだけれども。
「・・・おかえり」
「ただいま」
その相手、同居人である久我さんは、俺の言葉に返すと俺の正面に座る。
これはここ最近の『いつものこと』である。
俺が卓袱台の前に座っていたら、俺の前に何故か座る。
誰が促したわけでも、義務でもない。
それでも、久我さんはそれが正位置かのように座る。
というか、この部屋のどこにいても、久我さんは帰ってくるとまず俺の傍に来る。
それこそ、義務のように。
それも最近は慣れたけれど。
「何を広げてるんだ」
久我さんの声は少し疲れているようで、そんなんなら別に俺に構わなくても自分優先で身支度整えて寝てしまえばいいのにとも思う。
今日は夜勤の久我さんだ。
「ん?宿題」
「なんの」
久我さんはそういいつつ、カバンの中からバイトの道具を取り出している。
明日も使うのだろうに一々片付けるところをみると、
結構、綺麗好きというか、片付けるのが上手い人なんだと思う。
一人暮らしを続けているとガサツになりがちな俺とは正反対だ。
「いやー、家族のことについてみたいなやつ」
そこで久我さんは少し黙った。
そして
「・・・あの、な、児谷・・・その・・・訊いてもいいのか分からないんだが・・・」
恐る恐る、って感じ。
久我さんが俺に話しかける。
「ああ。家族仲は悪いわけではないんですよ?」
それを何となく読み取って、先手を打った。
そしてそれは当たっていたらしい。
「そ、そうか・・・」
ドギマギした様子の久我さんに更に重ねる。
「というか、久我さんって俺の事追ってた時にかるーくその辺調べてたりしてたんじゃないんですか?」
まあ、この辺りは勘だけど。
「いや・・・俺は特に知らない。あの時だってたまたまお前を追う役になっただけだしな・・・」
そういえば、最初は俺の顔も知らない感じだったっけ。
いや、顔も知らないのは、だから全員だったりするんだろうけど。
情報もザルっぽくて粗かったからこそ、あの人違い騒動になったんだろうし。
「まあ、それならそれで。いや、本当に軋轢(あつれき)や衝突があったりしたわけではないんだよ。虐待みたいな育児放棄だとか、そういう必要に駆られた問題があったわけでも全くない。ただただ、俺の幼少期からの夢を叶えただけで。いやまあ、そんな願いを大して強く止めなかった両親のソレは世間一般からすればちょっとズレてるかもしれないけどさ。まあ、放任主義だった、って思ってくれれば」
今でも両親とは定期的に連絡もとっているし(定時報告みたいなのに近いかもしれないけど)差し入れも届くから別に困っているようなこともないんだけど。
しかしながら、この宿題は少し困る。
家族、ねえ。
ちなみにもう少し具体的にすると『家族に対しての思っていること、また、家族の話』である。
思っていること、とか、ある意味特殊な環境過ぎてそんなに無いし。
感謝しかないですよ、もちろん。
ちょっとドライな関係なのかもしれない。
それはそれで居心地はいいけどな。
過干渉してこないのは、思春期男子にとっては良いことかもしれないし。
まあ、全く寂しくないわけではないけど。
でもその寂しさも、今はほとんどない。
すぐ傍に人がいるっていうのは、本当に大事なことなんだろうな。
そんなことを久我さんを見ながら思った。
その視線に気付いた久我さんが少し照れたような表情を浮かべたけれど。
「ああ、そうか。家族であればいいんだから・・・別に久我さんでもいいわけか」
「・・・ん?」
そこで俺は、宿題に取り掛かるのであった。
「『問一、あなたのお子さんについてどう思いますか?』」
「は・・・?」
<***>
この宿題の難点は、そう。
つまり、インタビュー方式だったことである。
俺はその生活スタイル故に、家に帰ったら家族がいるわけではないので、そう易々とインタビューなんてできないのであった。
それこそ連絡をとればいいことではあるけど、前述の通り、最早定時連絡みたいになりつつある今、そんな連絡をするのは、まあある意味照れ臭かったし、
何より、一年の時点で俺は一人暮らしだったので、そんなに家族とここ最近会っているわけではないのだ。
それこそ、長期連休くらいは帰るけれど、それくらいで。
「いや、だからって・・・居候で、他人だぞ・・・?」
「まあまあ。それはそれだよ。別に血が繋がっていなくても家族にはなれるだろ?結婚とか」
そう言った瞬間、久我さんが一瞬で赤面した。
「け、け、結婚って・・・」
どうしたというのだ。
この人、意外に表情に出やすいからな。
まあ、何が出てきたのかはよく分からないけど。
「それに俺、久我さんにそう『他人』ってビシっと言われると若干傷つくなあ・・・」
まあ、嘘ではない。
俺にとって久我さんはもう、他人だけど赤の他人ではないのだから。
同居人、居候。
フェロモンだとかそういうまあちょっとよく分からないあれこれはこの際無視して、久我さんは。
俺の生活の中にしっかりと組み込まれているし、根を張っているのだから。
ある意味、本当の家族か何かのように俺を思ってくれている、そう思える人だ。
それは少し驕りでも傲慢でもあったかもしれないけれど。
それでも。
「頼むよ、俺だって明日には提出しなきゃだし」
「それは・・・そうかもしれないが・・・」
「・・・ダメ?」
卓袱台を挟んで対面した状態で、俺はおねだり作戦に入る。
悲しそうに、久我さんに縋りつく。
すると
「~~~ッ!分かった・・・分かったから」
久我さんは折れてくれるのである。
もっぱら俺に甘い人だ、本当。
そしてそれに俺は甘えるべきだろうな。
俺を甘えさせてくれる人が、こんなに身近にいることが、それだけで恵まれているのだから。
「で、問一の答えは?」
分かりやすい変わり身だ。
それでも久我さんは律儀に答えてくれる。
俺に、応えてくれる。
「お子さんってのはお前のことで良いんだよな・・・えっと・・・そうだな・・・優しいって感じか。優しくて、甘い。詰めもわきも甘い。付け入られやすくて、トラブルを引き寄せやすい。巻き込まれやすい、ともいうのか。でもそれに対して、結局は引っ張ったりしないでスパッと割り切れるあたり、凄い奴だと思う」
「お、おぉお・・・」
俺は用紙にそれを記入しながら唸ることになった。
思ったよりちゃんと答えてくれる・・・。
あとこっ恥ずかしい。
他人の自身に対する評価を自分で書いているあたり。
「と、『問二、あなたはお子さんになにを望みますか?』」
それでも宿題を進める俺。
そして答える久我さん。
「何も。俺がお前に望まれたい。お前の望みを叶えたい。俺がお前の望みになりたい」
「っ・・・」
このイケメンはマジでどういうつもりなんだろう。
つかこれ多分天然で言ってるよな・・・。
天然タラシか、イケメンが。
つかこんなの書けねえよ。
どんな家族だ。王家か。
まあ、その後も地獄のような質疑応答は続いたのだが、それでも何とか、俺の宿題は終わった。
そしてそんなことにホッとしていると、次なる障害が訪れるのである。
それは最早、その宿題が伏線であって、それを回収しに来たのではないか、というようなものだったが。
学校にて。
「それでは、今からプリントを配りますが、この用紙は大切なことが書いてあるので、必ずご家族に見せてねー!」
いつもいつも俺に対して嫌がらせのような課題をくれる担任教師であるが、今日もそれは例外ではなかった。
いや、彼女だって(先生に使う呼称かどうかは不明だが)学校の方針に従っているだけなんだろうけれど。
それにしても、俺を困らせてくれる。
その紙が回ってきたとき、俺は少し天を仰いだのであった。
その紙-三者面談のお知らせについて-を見た時の話である。
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