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3 出逢い
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この日、このため息を吐く男である風見は、全くついていなかった。いつもの電車が遅延しギリギリ始業に間に合ったが、息つくまもなく朝からマネージャーに呼び出されて、悩みがあるのかと聞かれていた。
悩みといえば悩みになるのか分からないが、仕事に対する情熱も消えて、ただノルマを最低限こなす毎日を送っている毎日に、ただただ、息が詰まりそうな閉塞感があり風見を苦しめていた。
「なにか目標となる夢であるとかは無いの?」
マネージャーの言葉に感化されたわけではないが、この息苦しさ、ただ何もなく生きている状態については、マズイとは思っている。確かに何か目標となるものを見つけなければならないのかもしれないと思っていた。
夢中になれる、何か。
蒸し暑い中で、もう一度ため息をつく。
「あのッ・・・あ!ちょっと待って!」
急に肩を叩かれて、驚いた。慌てて振り返ると、そこには自分より若い、清潔感のある男性が立っていた。
「・・・何か?」
胸がキュッとする感じがあり、言葉が急に出てこない。
優しげな目元。困ったように寄せられた眉。襟足を涼しげに刈ったサラサラの頭を傾けながら、彼は慌てたように喋った。
「て、定期!!こ、これ、あなたのでしょう?」
突き出すように出されたその手には、間違いなく自分のパスケースが握られており、慌ててポケットを探った。
・・・無い。
「すみません!・・・ハンカチを出した時に落としたようです!」
危うく無くすところだった。
目の前の男性にモゴモゴと不要な言い訳をしながら、パスケースを受け取った。その時、彼の指先が触れた。触れた瞬間、その男性は顔を真っ赤にして俯いた。
「じ、じゃ、これで!」
慌てて走り出しそうになった男性の肩を思わず掴む。何かわからないが、ここで別れてしまってはいけない気がしたのだ。
ぎょっとして振り向いたその顔が、なんと綺麗な事か。ドキドキと胸が熱くなり、思わず手に力が入った。
「・・・待って。待って下さい!お礼をさせて下さい!!」
真っ赤な顔に、なぜか潤んだ瞳。俺の必死な様子に驚いたのか、ぽかんと開けた唇。
見とれてしまった。
なんて。なんて綺麗なんだ。
後で思えば、なぜ男性に対して綺麗だと思ったのか分からない。なぜ引き止めたくなったのかも分からない。
だけれど、その時の俺は必死だった。
恐らく、ここで手を離したら二度と会えなくなる人だ。慌てて言葉を重ねた。
「・・・失くしてしまっていたら、本当に大変でした。だから、だから、お礼をさせて下さい。そうだ、腹は減ってませんか?!飯に行きましょう!すぐ近くに美味しいところがあるんです、是非一緒に行きたい!」
突然の申し出に、目の前の男性も狼狽えた。
「え?いや、その。」
困ったように眉を寄せながら、俺の勢いに押されてきちんと断りの言葉を発せないことをいいことに、半ば強引に背中に手を回し、歩みを進めた。
必死だった。胸がギュッ痛くなって、手を離してはいけないという焦燥感に似た焦りを感じていたのだ。
真っ赤な顔でモゴモゴと言う言葉を一切無視して、俺は歩みを進めた。
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