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「・・・お待たせしましたじゃなくて、お待たせ!」
敬語をやめるのがまだ慣れなくて、デコピンの真似をされながら、楽しいな、としみじみ思う。
さっきまで、おれ、息苦しくて堪らなかったのに、この短い時間で何回笑っただろうか。
「ありがとう」と頭を撫でられると、なんだか恥ずかしいやら、嬉しいやらで、手のひらにかいた汗を太ももに擦り付けた。
と、俯いたおれのおでこを人差し指でツンと突っつかれて、びっくりして顔を上げた。
その顔が可愛くて、風見は笑顔が止まらなかった。
小動物みたいでかわいくて、でも、なんとなく儚さがある。
俺はもう、この子を手放すことは出来なさそうだ。もっと仲良くなりたいと思った。
お互いにいろんな話をした。
風見さんは、営業をしているらしい。その業務の中に顧客管理や、出納の管理、クレーム処理などがあって定時で帰れることは殆どないのだそうだ。
「お仕事、大変そう。」
「単に雑用係のなんでも屋さんなんだよ。」
そう言って、なんでもないことのように笑っていた。
「おれ、クレーム処理なんて、怖くてできない。」
「慣れれば大丈夫だよ。」
いたずらっぽい表情に、ブハッと今日何度目かの吹き出し笑いをした。
笑いすぎて、涙が出てくるなんて、本当に久しぶり。
いままで頓挫してしまった学校教諭の夢を引きずって、日々考えないようにしながら、でも結局ウジウジ考えてしまっていたのに、なんだか、そこまで深刻にならなくても良いような、そんな、気持ちになってきた。
だって、学校現場で性格的に向かないおれが、あのままグダグダと過ごしていたら、風見さんに会えてなかった。
「今日ね、風見さん。おれ、初めての事をしたんだ。」
「え?なになに?」
「馬鹿にしないでね?・・・名刺交換。」
風見さんの目が大きくなる。続いてニヤっと悪い顔になった。
「・・・てことは、俺、小夜のハジメテを貰ったの?」
「ヤダヤダヤダヤダ!!言い方!!」
顔が、熱い!
もぉっ!!と、ぶすくれて見せると、風見さんがゴメンゴメンと頭を撫でてきた。
本当は子ども扱いするなと更にむくれても良いんだろうけど、正直、撫でられるのが嬉しかった。挫折して逃げ出したおれを、おれ自身を認めてもらったような、そんな気持ちになったのだ。
なんだか嬉しかった。
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