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「お腹、いっぱいになった?」
小夜を覗き込むように見つめる。
小夜は近くなった目線にドキドキが止まらなくなった。
「うん、もう食べれないくらい、お腹、いっぱい!」
良かった、と頭を撫でられて嬉しかった。子どものような扱いに怒っても良い筈なのに嬉しくてたまらない。
風見さんは腕時計を見て、「行こっか。」と背中を抱くようにして誘導してくれた。
次、どこだろ。
見上げると、「ん?」と首を傾げてニッコリ笑ってくれる。
「次、どこかなって思って。すっごく楽しみ!」
ふふ。口元が緩みっぱなし。
そういうと、風見さんは急に顔を背けて、こっちを見てくれなくなった。
え?え?どうしたの?次の場所、内緒なの?
駐車場に戻るのかなと思っていたら、通り過ぎて、そのまま先へ歩く。さっきまでの多国籍な混雑っぷりが夢だったのかと思うくらい、人通りが減っていった。
風見さんも、またおれを見てくれるようになって、さっきの質問が困らせちゃったんだな、と腑に落ちた。
やっぱり内緒だったんだ。楽しみだなぁ。
どんどん歩いていくと背の高いビルがたくさん出てきて、街の様子が変わってきた。
「そこの道に入ろうか。」
横道に入ってしばらくすると、おれはびっくりして、動けなくなった。
だって、そこには、テレビでしか見た事のない、歌舞伎座がデンッとそびえたっていたからだった。
「す・・・っごい!!風見さん!歌舞伎座だよ!歌舞伎座!!」
風見さんは、魔法使いに違いない!だって、築地からすぐだったよ?!ここって、銀座なの?!すごい!すごい!すごい!!
「びっくりした?」
悪戯が成功した、独特の「へへん」と言わんばかりの顔で風見さんが笑う。おれは驚きすぎて、すごい!すごい!って連発しながら、子どもみたいにはしゃいでしまった。
「良かった、成功した。」
横断歩道を渡って、歌舞伎座の真ん前に立つ。
感動。ぼーっと見上げていると、後ろからパシャッとシャッター音がした。
くるりと振り返ると、満面の笑みを浮かべた風見さんが、「はい!ポーズ!」と言ってくる。テンションが振り切ったおれは、えい!と見栄を切る格好したら、ハハハッ!と笑われながら連写された。
どうしよ、楽しい!
照れ隠しに風見さんにぶつかるように走っていく。急には止まれず、抱きつくような形になりながら体勢を整えると、風見さんの両腕をギュッと掴んだ。
抱きつきたいくらい、嬉しい!
「風見さん、ありがとう!」
ふたりでお互いの両方の肘を掴むようにしながら、笑った。
楽しい!
楽しい!
楽しい!
「ハハッ!小夜、並ぶよ!」
「うん!」
当日券の列に並ぶ。一幕(ひとまく)見席(みせき)というらしく、今回は1000円で観れる公演らしい。ひとまくみ、と言うだけあって、一日中ある公演の中の、ほんの一幕だけ観れる当日券らしく、観れるかみれないかは、一幕見席に並んでいる人数によるらしい。人気のある人が出る場合は、たくさん並んでしまって、チケットが買えなくなるそうだ。
歌舞伎って、チケットが何万円もする高級娯楽だと思っていたのに、こんな金額で観れるなんて、風見さん、物知りだ!
そう言うと、風見さんは訳知り顔で人差し指を振った。
「チッチッチ。小夜、俺たちの席は後ろの後ろの後ろーの席だ。世の中は金!ってことを、よ~く見とくんだぞ?」
その真面目な顔に、ブフッと吹き出す。
「わかった!これも人生勉強ってことだね!」
おかしくて涙が出てきた右目を拭うと、風見さんが左目を拭ってくれた。
顔を見合わせて笑い合っていると、ちょうどチケット購入の順番がきた。今度はおれがお金を払って、番号の書かれたチケットをもらう。
「37番と38番だって。」
ちょうだい、と手を出されたので2枚とも渡すと、風見さんはお財布にしまい込んだ。入場できるまで40分程時間があるから、地下の売店に行くらしい。
わくわくしながら地下に降りると、そこは江戸の町だった。
「え?すごい!!わーっ、茶屋もある!」
わくわくが止まらない!気がついたら風見さんの腕を掴んで、あっちのお店、こっちのお店と移動していた。
「風見さん、見て!小判が売ってある!・・・あ、こっちは金ピカの家紋だ!葵の御紋、カッコイイ!・・・わ、どうしよ、組紐、凄く綺麗。今日の記念に買おうかな。」
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