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初めての歌舞伎が終わり、ほぉ〜っと息を吐く。
凄かった。迫力が。そして、同時に何で解説のラジオが貸し出されるのかっていうのも、よーく分かった。
喋っているのは、分かる。でも、4階席ということもあって反響しているからなのか、さっぱり台詞が入ってこないのだ。
ふたりで顔を見合わせながら、ふふっと笑う。
「良い勉強になったね。」
「次は借りて解説を聴きながら観ると、もっと面白いかもだね。」
お互い体をぶつけるようにしながら、クスクス笑いながら、ふざけて歩く。外は夏の風が吹いて気持ちよかった。
せっかく銀座にきたのだから、有名なキムラヤのパンを買って小腹を満たすことにした。
「ホンモノのキムラヤだー。」
偽物のキムラヤなんてないけれど、かの有名なパン屋さんだということで、なんだか凄く嬉しい。
創業150年の味らしい。お店には、有名な「家村木」看板が掲げてあり、山岡鉄舟が書いたものとしてあった。本物は関東大震災で焼失しているそうだが、迫力のある素敵な看板だった。
柔らかな色彩の店内で、ふたりで並んでいる。
「小夜、なんにする?」
いっぱいあって悩んだ。
でも、やっぱりここは・・・。
「酒種あんぱん!」
小倉を買い込んだ。
イートインもできるみたいだけど、今回は車の中で食べることにして、駐車場に戻った。
途中の自販機でコーヒーを買う。風見さんのは黒い缶。おれのは、青の缶。
暑い車内で、窓を全開にして、クーラーのフル回転直風を浴びながら、小夜は購入したあんぱんをひとくち齧った。
うん!美味しい!ふふ、楽しいなぁ。
あまい小倉の味が、口の中に拡がって肩の力が抜ける。なんだか懐かしい味に、小夜は幸せで微笑んだ。
隣の風見さんを見ると、風見さんもおれを見ていた。
「・・・美味しい?」
「うん!」
「一口ちょうだい。」
そう言われて、パンを千切ろうとしたら、手元が影になった。
「・・・あ。」
風見さんがおれの座る助手席のシートの肩の部分に左手を置いて、おれの股の間の隙間に右手を置いて、顔をおれの手のパンに直接持っていく。
風見さんの口が開いて、パンを一口齧った。
・・・その口から、目が、離せなくなった。
硬直してしまったおれを見上げるようにしながら、風見さんが、もうひとくち齧る。
ゾクッとした。
風見さんはパンを食べているのに、まるでおれが食べられているような、そんな感覚に陥ったのだ。囲われた腕に、息苦しさを感じる。なんだかゾクゾクと背中の奥が震えた。
「・・・ッ」
セクシャルなその雰囲気にゴクリと唾を飲み込んだ。ペロッと口元を舐めとる舌にくぎ付けだった。
「・・・ん。美味かった。ごちそうさま。」
風見さんが元の姿勢に戻り、頭を撫でられて、ようやく魔法がとけた。
「・・・ッ・・・はぁっ、はぁっ。」
息が整わない。
「小夜?どうした?」
心配して、頬やおでこに触れられると、ますますおかしな感じになった。過呼吸のような症状に、思わず風見さんの手を取った。
胸が苦しくて、その手ごと心臓に当てた。
「ちょっとびっくりした、だけ。もうちょっとだけ、このままでいて。」
ギュッと風見さんの手を握って、息が整うまでの時間を貰った。
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