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80 翳り
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会議の報告資料を捲る。
頭の中に取り込まないと仕事にはならない。特に重大な決定事項については、忘れないためにパソコンにメモを残すようにしている。
2018年8月23日取締役会議三役出席
・・・について2019年4月から実施とし、完全移行は2020年5月末。予算配分は各拠点規模により本店で決定する。プロジェクト担当者を各拠点で2名決定し、2018年9月末の会議にて要報告。
本格始動するプロジェクトの事を思うと気が重い。おそらく担当の1人は俺になるだろう。ディレクターから予告をされていた。
資料を捲り、他の決定事項、次回に回された案件を確認してから、目頭を揉んだ。
とりあえず目の前の仕事を片付けなくては。
金曜から保留になっている案件を保留(ペンディング)ボックスから取り出す。このボックスが空になることが無い。
ため息をついた。
通常業務とプロジェクトの開始時期の事を考えると、計画(アジェンダ)を組み直す必要がありそうだ。
コーヒーを飲もうと立ち上がると、声を掛けられた。
「リーダー、助けてくださいっ」
チラッと見ると、後輩の澤田が受話器を持ったまま、片手で拝むようにしている。
「・・・だれ?」
「三笠商事のトンプソン様です。」
「イン(入電)?アウト(架電)?」
「インです。」
溜め息をつくと、指で自分の受話器を指す。
「3番です。」
「・・・お待たせして申し訳ありません、風見です。」
この客はなかなかの曲者で、澤田が苦手とする相手だ。だが、苦手と言っても顧客なのだし、澤田が成長するためにも克服が必要だと思って、敢えての担当にしている。一次担当が澤田。無理な時はこうしてエスカレーションされて俺が対応する。
『・・・ヨカッタ。澤田サンハ、良イ子ナンダケド要領ヲ得ナイカラ、風見サント話タカッタ。』
「それは申し訳ございませんでした。ご用件をお伺いしたします。」
アメリカ国籍のエドワード トンプソンは、何かにつけて電話をしてくる。もちろん、こちらから電話して新しいサービス(商品)の企画を提案するためのアポを入れることもあるが、ここ暫くは新規案件は無く、運用も問題無かったはずだった。
なのに電話をしてくることが良くない話に繋がりそうで気が重くなった。
『今、導入シテイル リモンシステムノ流レヲ変更シテ欲シイ。会社ニ来テ下サイ。』
「具体的にどの部分になりますか?」
『来テ見テモラッテカラ話スヨ。』
・・・ワガママなヤツめ。
「わかりました、では澤田に向かわせます。」
『マズ、風見サンニ見テモラッテカラダ。暫ク会ッテイナイカラ、会イタイネ。』
舌打ちしたいのを堪える。三笠商事はうちのサービスをかなり購入してくれている上客だ。
すぐに来てほしいと言われ、時計を見たら10時半。今日は他にアポも会議も入っていないから、対応可能だ。了承すると、外出の準備をした。
「澤田、俺一人で三笠商事に行ってくる。帰社は14時で書いててくれ。」
「・・・苦情(クレーム)でしたか?」
「いや、大丈夫。話を伺ってくるよ。」
しょぼんとなった後輩に元気を出させようと笑顔を向けた。
「ほら、澤田。俺が居ない間の対応頼むな。」
「はい!」
元気良く返事をする様子に安心して、背を向けた。
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