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84 癒し
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小夜は俺の天使だ。
鬱々とした気持ちのまま会社に戻っていると、目の前の横断歩道を渡っていく小夜が見えた。慌てて携帯を取り出し、電話をした。振り返って笑った顔に、さっきまでの辛い時間のことは忘れてしまった。
郵便局まで行くんだと笑って、眩しそうに目を細めた小夜が愛しい。
せっかく逢えたけれど、社に戻って仕事をこなさねば帰りの時間が遅くなる。お互い頑張ろうと頭をくしゃりと撫でるとそれぞれ別れた。
心が軽い。うん、俺はまだ頑張れる。
鞄の取っ手を握り直し、風見は会社に戻った。
「リーダー、小島ディレクターから電話がありました。戻り次第、連絡が欲しいとのことです。」
「そう、ありがとう。」
返事をしながらマネージャーと開発、そしてCCで澤田に今日の三笠商事との打ち合わせ内容をメールした。開発へは、要望が対応可能かどうかと工数がどれくらいかかるのか出してもらわなければ、見積りを作成できない。
内容と今動いているものを改訂するリスクを比べて、費用面とつき合わせた上で落としどころを見つけないといけないからだ。
送信してすぐ、小島ディレクターへ電話をする。部屋に来るようにと言われ、席を立った。
「澤田、メール送ったから確認しといてくれ。開発から電話があったら内容聞いといて。ディレクターのところ行ってくる。」
ガラス張りのディレクター室の前に立ち、ノックをすると、どうぞ、と中から返事があった。
ディレクターの小島さんは、女性だ。
「最近、どう?」
「ディレクター、質問の意図がわかりませんが。」
「風見くんは相変わらずねぇ。仕事は順調?」
目の前の椅子を勧められて、素直に座る。
「順調といえば順調です。三笠商事が厄介ですが。」
「ふふ、大変ね、気に入られて。」
「おかげさまで。」
小島さんは、昔ほんの一時期付き合ったことのある女性でもある。俺が新人のときに配属された部署のマネージャーだった。
一瞬で燃え上がり、一瞬で燃え尽きた。
お互いに仕事のパートナーとしては良いが、恋人としては不適合と判断したのだ。
別れた時も、お互いサバサバしたものだった。
そういう過去があるからなのか、三笠商事との打ち合わせの後は部屋に呼ばれるというのが恒例で、俺は言い寄られていることを言いはしないが、彼女は何となく察しているのだと思う。
「辞めないでね?」
「わかりませんね。」
「・・・風見くんの仕事の実力は、かっているのよ。」
小島さんの前だと仏頂面を隠さなくて良いから正直楽だ。
「・・・守りたい人が出来たので、仕事はやれるだけやってみるつもりです。」
そう告白すると小島さんは手を叩いて喜んだ。
「まあ!風見くんがそんな事言うなんて!凄いわ。どんな彼女なの?」
「・・・内緒ですよ、言いません。」
ふふ、残念。ペロリと舌を出して悪戯っぽく笑う彼女は、年上とは思えないくらい可愛かった。
「その子のために、もうちょっと足掻きますよ。大事なんで。」
じゃあ、と言って頭を下げる。小島さんはバイバイと手を振って退室を許した。
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