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「で?見込みあるの?」
案の定呼び出された会議室。
ディレクターとマネージャー、澤田と俺で資料と見積りを突き合わせている。
「わかりませんが、三笠商事からの要望をそのままを開発に伝えました。リスクを考えてテストの工数はプラス3日、導入開始後はプラス2日、サポートの電話対応は1か月で考えています。」
「そんなに上手くいくかしら?もう少し金額上乗せしといたら良いわ。確かうちのサービスと大山会計のシステム繋いでいたわよね?きっと面倒なことになる。」
落とし穴は嫌いよ。
そう続けたディレクターの言うことは正しい。うまく関連付け・連携(リレーション)できなくなれば、損害を出すことになる。
しっかりと動いているシステムを変更するのは、カケだ。
テスト環境でちゃんと動いたからといって、実際プログラムを落とし込んだら動きませんでしたってことは、珍しくないのだ。
「数字的には欲しい。」とはマネージャーの言葉。
実際契約して導入したら、結構な金額が会社に入ってくる。
三笠商事本社でプログラムを落とし込めば、夜中のバッチで全国の営業所へ配信される。つまり、作業の手間的には、本社サーバーでの作業一つで、楽に収益をあげることができる。今期の目標は楽々クリアだ。
「今回はリスクが嫌なの。風見くんも新規を取ってきてくれればいいのに。」
開発にも席を置いていたディレクターは、危険だということがわかるのだろう。いつになく慎重になっている。
対して営業畑で育ったマネージャーは数字が欲しいため承認したい。
「はい、出来ませんでした」は通用しない世界だ。引き受けたものは、どんな事になっても要望がどおり動かす必要がある。実際の作業は開発担当と運用担当が協力して行うが、問題があったときに真っ先に叩かれるのは窓口の俺であり、会社だ。
それが営業だし、その分の給料も貰っている。
リスクは想像でしかないが、必ず起きるだろうとディレクターが言うのであれば、それは現実にある事なのだろう。
ソースを読めない俺の知識と読めるディレクターでは先を見越す能力が違う。
「とりあえず、ふっかけなさい。私が言うべき言葉じゃないのは分かるけど、今回の件、やめた方がいいわ。せっかく正常に動いているものに手を加えるのはいただけない。金額ふっかけて、リスクを強調してきなさい。」
「わかりました。」
仕事は受けるなと言われた打合せに疲れが増した。
会議室を出ると、後ろから澤田がコソコソと話しかけてきた。
「リーダー、開発が出来ると踏んで資料送ってくれているのに、何でディレクターはあんなに反対するんですか?私、反対される理由がわかりません。」
「ディレクターがああ言うってことは、過去に大山会計とのリレーションで何かあったんだよ。ディレクターが反対するってことは、それなりの理由がある。」
「その時はそうだったかもしれないけど、ディレクターが直接現場立っていた頃より、ずっと今のシステムはバージョンあげてきています!いけるはずです!」
「そうかねぇ?」
「そうです!」
真っ直ぐな目をして澤田は俺を見上げる。ジッと見下ろすと、急に慌てだした。
「あ!やだ、ハンカチ忘れてきちゃったみたい!取りに行ってきます!」
落ち着きのない澤田は、多分、俺の勘違いでなければ俺の事が好きだ。
今回の上の決定に刃向(はむ)かうことを言うのは、俺が見積もった内容を肯定して、気に入って貰いたいからだろう。赤い顔をして走り去った後ろ姿を見て、ため息をつく。
今はとりあえず、エドワードがウンと言わない見積りを作り直さねば先に進まない。無駄な仕事に嫌気がさした。
さっさと終わらせて、新規開拓に回らないとな。
部署に入るためにピッと社員証をかざした。
------------※ ※ ※------------
そうして翌日。
ようやく決済のおりた見積りを手に、受話器を上げた。
「ソロソロ電話ガ来ルダロウト思ッテイタ。」
そう話したエドワードの発言に寒気を覚えた。
訪問する日程を決め、営業支援システムに入力する。同行者は澤田だ。
蹴ってもらうための見積りだから、額が大きいときにいつも同行するマネージャーは今回同席しない。見積りを渡したら、外回りの開始だ。
とにかく数字が必要だ。数字を確実に重ねて、実績を積む必要がある。
既存のユーザーからの紹介も狙って広範囲に攻める。アポを取るため机の中から顧客リストを取り出した。
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