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160 2018年9月5日
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今日、三笠商事との契約が済んだ。
エドワードは相変わらずの様子だったが、マネージャー同席のため深くは話をせずに商談が済んだ。
深々と頭を下げて、退出する。背中に「待ッテイルヨ」と声をかけられた。会釈をして扉を閉めた。
シンガポールで待っているよ、ということだろう。
代表としてシンガポールに行くことすら、恐らく三笠社内でも限られた機密事項だ。それを明かし、かつヘッドハンティングしてくれたのは、彼の好意でしかない。
エドワードが友人として付き合ってくれれば良かったのに。また考えてもしようがないことを考えてしまう。残念な気持ちで社に戻った。
デスクに戻ると、澤田が慌てて頭を下げてきた。
ご迷惑をおかけしてすみませんと、丁寧にラッピングしたクッキーを手渡された。
「・・・手作り?」
「はい!お口に合うといいんですけど。」
早口で言われた。
「体調は大丈夫なのか?」
「はい!次は気をつけますので、またお誘いさせてください。」
あり得ないだろう。
その言葉を飲み込んで、「機会があればね。」と流した。
クッキーと鞄を手に、部署を出る。本当は頂戴した契約書を所定のオーダー表と一緒にスキャンして、報告書を提出する必要があるが、澤田の顔を見たくなくて出てきた。
鞄を持ったまま出たのは、大切な契約書が入っているからだ。
足を向けたのは、ディレクター室だ。
予約せずに向かうため、不在の可能性があるがその時はその時だと思った。
覗いてみると、ディレクターは席に座り、書類を書いていた。
ノックをし、俺の顔を見たディレクターは嫌な顔をした。
「・・・来たわ、マヌケ君が。」
「開口一番、その発言って酷いですね。」
「しゃあしゃあと。赤がいいわ。」
「・・・謹んでご用意させて頂きます。」
礼はワインで。
小島さんらしい反応に、笑顔がこぼれる。
「・・・それ、メス猫の?」
クッキーを指差して嫌な顔で笑う。
「子猫から昇格ですか?」
「逆よ。降格だわ。」
ツンと顎を反らし、フンっと鼻で笑う。
「で、マヌケ君。私が行かなかったら、あなた食われてたわよ?」
「あー・・・やっぱりですか。」
恐らく、酔ったふりをした澤田。
帰る場所がわからないとなれば、俺の家に連れ込むか、適当なホテルに連れて行くしかない。
そこで襲ってもらおうという魂胆だったのだろう。
「やっぱりって思った根拠は?」
「これですよ。」
と、クッキーのラッピングを摘んだ。
「酔い潰れたやつが、翌朝クッキー作れる余力が残ってるなんてありえないですからね。あの後すぐに帰って作ったとしか思えない。」
せいかーい!ピンポンピンポンピンポーン。
小島さんの棒読みボイス。
あんな面倒くさい思いなんて、もうさせないで頂戴!と念押しされた。
「ですね。俺も懲りました。」
「あらかた、相談があるんですけどーで誘われたんだと思うけど。不快だわ。」
だいたい襲われなかったとしても、ワイシャツに口紅くらいのケンカの種付けくらいはやってると思うわよ。
そう続けた小島さんの言葉にゾッとした。
そんなくだらない罠に引っかかり、小夜を泣かせたかもしれない状況に倒れそうになった。
よかった、抱き起こさずに。澤田は、要注意人物だ。
「じゃ。」
「あ、三笠の契約書は?」
鞄を持ち上げて、ニヤッとしてみせた。
「正解ね。しばらく気をつけなさいよ。」
暗に言われた事を受け止めながら、お辞儀をした。
「ロイズのチョコも楽しみにしてるわ。」
背中に被せられた言葉に手を挙げて答えた。
さてと。
クッキーはシレッと小島さんのところに置いてきた。小島さんが食べるなり捨てるなり処理をしてくれるだろう。
「オーダー表、書くか。」
今できる事をひとつひとつ片付けて、足元を固めることが大切だ。
小夜の笑顔を思い出しながら、部署へと続く扉を開けた。
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