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207 2018年9月12日 宣言
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毎週水曜日の定例の夕方のミーティングの後、今回はそのまま居酒屋へ移動となった。席はクジだ。若手が前もって作っていたクジを封筒から抜いて上座に座った。
総勢15名。
テーブルには、刺身の鉢盛りとサラダがすでに置かれて賑やかだった。
「お隣お邪魔します。」
と、入社6年目の後輩が隣に座った。彼女はあまり会議の場では発言しないから目立たないが、気の回る感じの良い女性で、印象は良い。反対側には先輩の女性社員が座った。
「風見ぃ!女性に囲まれて良いなぁ。」
と、こっそり話しかけてきたのは同期だ。
「席どこ?」と聞いたらアッチと目配せされた。
「・・・終わったな。」
「だろ?」
マネージャーと、酔ったら絡む先輩に囲まれている。
「おーい!乾杯するぞー!生ー!ウーロンー?」
杯数を数えだしたなか、目の前に澤田と小島さんが座った。
「お疲れ様です。」
濃い面子に囲まれた俺のクジ運って何なんだろうと思いながら、笑顔で挨拶した。
------------※ ※ ※------------
「風見さん、おかわりは何にされますか?」
「じゃあビールをお願いします。」
「澤田さん、私には聞かないの?」
・・・なかなかに、いたたまれない空気感。
何か席を外す理由はないかと周辺を見渡すが、それぞれの席で話が盛り上がっているらしく空いている席は無かった。
「そういえば風見さんって彼女いらっしゃるんですか?」
右手の先輩から会話を振られた。目の前の澤田の様子に苦笑いしている。
「はい。」
「お付き合いして長いんですか?」
「期間は長くないんですが、大事にしてますよ。」
「まあ。ごちそうさま。」
ほほほ、と大人の余裕感たっぷりの返しにホッとする。
澤田の方は見れない。
「じゃあ、そろそろ風見さんも結婚かしらねぇ。」
「どうでしょうね、相手のあることですから。ただ俺としては一生一緒にいたいと思ってますよ。」
左の後輩が「素敵ぃ〜。」と頬を染めた。
自分も言われたいと想像しているのが分かって、可愛いなぁと思う。誰しも愛し愛されたいのだ。
「ご家族には?」
「今度、妹夫婦と会わせますよ。」
「着々と進んでいるわね。私ももう一回結婚式挙げたいわぁ。」
「ふふ、ご主人ともう一度、ですか?」
「だって、結婚式楽しかったんだもの。」
そうか、楽しいのか。
小夜も楽しいと言ってくれるだろうか。
「お子さんは、いくつくらいなの?」
小島さんが先輩に話を振り、小学校の話で盛りあがった。
と、そこへ水を差すように
「リーダーの彼女って、子持ちなんじゃないですか?」
と澤田が話の舵を切った。
「ええー?!そうなのー?!」
どよめく女性陣の様子に一瞬場が静まる。
「・・・なんで?違うけど。」
「この前、ホームセンターでカーテン選んでる姿を見ました。」
あぁ、あの時か。美湖ちゃんと、美湖ちゃんのお母さんだ。
「隣の家の人だよ。たまにお子さんを預かってるんだ。この前のは たまたま買い替えたいっていうから車を出してただけ。」
周辺の人が聞き耳を立てているのが分かる。
不倫していると澤田は睨んだというところだろう。
「お隣さんのためにそこまでされるって、お優しいんですね。」
棘のある言い方に、先輩と小島さんの顔が苦くなった。
「彼女と子どもが仲良しなんだ。そこ繋がりだよ。」
「彼女さん、その買い物の間、何されてたんですか?」
「うちで家の事をしてくれてたけど?」
苛々する。何の追求だよ。
「今日も、うちで待ってるし。澤田は何を知りたいわけ?」
「・・・。」
マジ、もう嫌だ。
「俺は彼女の事を愛してるし、彼女も俺の事を愛してくれてる。俺が出来ないところは彼女が助けてくれるし、彼女が出来ない部分は、俺が助ける。互いに良いパートナーで信頼し合ってるから、心配してもらうようなことはないよ。」
言い切って、澤田を見つめた。
パチパチパチ・・・
小島さんが拍手した。続いて先輩が賛同する。
「いよいよ結婚か!!風見!おめでとう!」
と澤田以外、みんな拍手しだした。
・・・やってしまった。澤田のせいで羞恥プレイ。
職場で彼女大好き宣言をする、イタイ男になってしまった。
仕方がなかった。これで澤田も諦めるだろう。
みんなから「呑め呑めッ」とむやみやたらに酒を勧められ、次の波乱の予感がしてならない。
早く帰りたい、と史上最大級の嘆息を吐き散らしながら、注がれた酒を飲むのだった。
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