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はじめての幼稚園へのお迎え。
小夜はとてもわくわくしていた。
12時に事務所をでて、マンションへ戻った。お母さんの話では13時半に出ればちょうど良いそうだ。
幼稚園ってそんなに早く終わるって知らなかった。
さっとお昼を食べてから、ラフな格好でお母さんと一緒に出かけた。
幼稚園に到着すると、賑やかな声が門の外まで響いていた。
可愛い猫の形をした送迎バスに乗る組と、保護者を待つ組に分かれて騒いでいる。
カラフルなエプロンやスモッグを着た先生たちが子どもを追いかけて走り回ったり、子どもによじ登られたり、バスに乗せて点呼したりと大忙しだ。
「美湖ちゃーん、ママが迎えに来てくれたわよー!」
お母さんに気付いた1人の先生が、美湖ちゃんを連れて来てくれた。
「ママー!さっちゃーん!!」
「こんにちは、あやの先生。美湖はいつも通りでしたか?」
「お昼ご飯も残さず食べて、お昼寝も出来ていましたよ。・・・そちらが、さっちゃんさんですか?」
ふふふ、と笑いながらあやの先生がおれを見る。
「はい、美湖ちゃんが?」
「ええ、さっちゃんとあっくんのお話を今週ずっときかされてます。」
美湖ちゃんが足に抱きついて来た。
「さっちゃんはあっくんとけっこんするから、あやのせんせいはダメだよー!」
「みみみみ、美湖ちゃん!!」
「さっちゃんはあっくんのこと、だいすきなんだもんねー?」
・・・おれ、死んだ。
硬直したおれを見て、笑いながらお母さんが美湖ちゃんに諭した。
「その話はいいから、今日幼稚園であった事を教えてね。」
あやの先生は「美湖ちゃん、さっちゃんさんの事が大好きでたまらないみたいです。仲良しって言っていましたよ。」とフォローをしてくれた。
・・・あやの先生、でも、おれ、立ち直れないかも。
「そ、そうですか。」
「大丈夫ですよ、堂々とされてください。少なくとも美湖ちゃんには、いい影響を与えているようですので。」
ほかの保護者に聞こえないように、小声で言ってにっこりと笑ってくれた。
「あやの先生、ありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
ふたりでお辞儀して、微笑んだ。
「さ、美湖。帰りましょう。」
「あやのせんせい、さよーなら。」
「美湖ちゃん、さようなら。」
美湖ちゃんが90度にお辞儀して、バイバイをする。
あやの先生は「また明日。」と言って手を振り返してくれた。
なんだか戦場のようなところだけれど、心温まる場所だった。
------------※ ※ ※------------
「平日はお迎えに行けるんですか?」
「間に合わないときは延長保育になりますが、朝10時から13時までのシフトにしてもらったんです。保育園なら、もう少し長く預かってくれるんですが、お友達もいるのに離れさせるのは可哀想で。そのかわり土日は10時から18時まで働きます。生活はギリギリだと思いますが、小学校にいくまではこのシフトのままですね。」
無理はしないで、と言うのは簡単だけれど、状況を考えると無理をしなければならないだろう。
「お手伝いできることはしますからね。」
「ありがとうございます。貯金も少しですがありますから、あと2年くらいは食いつぶしていけます。」
この子と一緒にいれるだけで幸せなんです。
おれとお母さんの手を繋いで、楽し気にスキップする美湖ちゃんを見つめる眼差しは慈愛に満ちていた。
「なんであんな酷いことしたんでしょうね。」
「お母さん・・・。」
「その事を忘れずに、ひたすら愛していこうと思います。」
「はい・・・。」
美湖ちゃんが声をあげた。
「さっちゃん、またおむかえきてねー!」
「そうだね、また行くからね。」
そういうと立ち止まって、指切りをした。
「やくそくー!」
「うん、約束。」
大切な小さいお友達との約束。
小さい小指を絡ませて指切った美湖ちゃんの頭を撫でてあげると、また手を繋いでマンションへ戻った。
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