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245 2018年9月18日
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マネージャーに朝から呼び出された。
10時に第三打合せ室に来て欲しい、との事だった。
・・・あぁ、やっぱり。
俺のところに来てしまった。
話を聞かなくても、内容は分かっていた。
胃の中がズンッと重くなった。
ため息をつきたいのを堪えて、わかりました、と頭を下げた。
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
打合せ室に向かうと、案の定、小島さんとマネージャーが座っていた。
目の前の席を示され、一礼してから座る。
「早速だけど、8月23日取締役会議の決定事項は記憶にあるかしら。」
「はい、営業チームの子会社化ですよね。」
「そうよ。知っての通り、営業の基本業務は子会社に移す。」
それが決定されたのが去年の5月だ。まずは来年4月からの会社の立ち上げに向けて、部門の業務整備をする必要がある。
そのプロジェクトチームに入るように言われた。
今回の子会社化の仕組みをザックリ説明すると、俺たちは子会社が利益を得ることができる金額で顧客から契約をとり、ライム・コーポレーションへ発注する。ライム・コーポレーションは、発注されたサービスを顧客へと卸し、提供する。つまり、営業は子会社が、それ以外の設置工事、ソフトウエアの設定等は、本体であるライム・コーポレーションが行うというものだ。
子会社が顧客との間に入る事によって、ライムは販売に関するリスクを回避し、利益だけを得ることができる。
「・・・それは決定事項ですか?」
「もちろんよ。全国の各拠点から2名ずつの営業が選抜されるわ。私としては、その取りまとめ役であなたを抜擢(ばってき)したい。他にも各部署から人を入れるわ。」
全国の支店の数は、都道府県の数よりも多い。
その支店から各2名選抜されるだけでも、結構な数になる。
そもそも、当初の内々の話では、取りまとめ役とは言われていない。蓋を開けてみたら、想定よりも重い職務内容を仰せつかり、俺は密かに慄(おのの)いた。
「・・・各拠点はサテライトオフィスという形での立ち上げになるから、各営業所の中でブースを作ることになる。本社のプロジェクトチームも来年の3月までの期間限定で ここの7階に部屋を設けているけれど、4月からは別会社になるから、本社を近くのビルの一角にお引越しよ。」
会社の立ち上げに関しての書類はおおむねの完了しているらしい。
小島さんは、真剣な目をして俺を見つめた。
「営業社員の完全移籍は2020年5月末。その時には各拠点のサテライトも廃止して、別テナントに移る必要があるわね。・・・どう?これが順調に進めば、子会社での役付きになるのは間違いないわよ。」
取りまとめ役とは、何をするのだろうか。
・・・プレッシャーに押しつぶされそうな気がした。だが、同時にやりがいはあるだろう。
机の木目を見つめた。
・・・小島さん曰く、そもそも俺に拒否権はないのだ。やるしかない。
取締役会の前に、小島さんから大体の概要は聞いていた。
そのプロジェクトに推薦することも仄めかされてはいたのだ。
覚悟はしていた。だが、職務内容を聞くと手放しで喜べるものではなかった。
「・・・わたしが、適任でしょうか。」
「ずいぶん、小さいことを言うわね。」
不敵に笑われた。
「このプロジェクトに、ジジイは要らない。革新的な会社の形態を作り、互いに切磋琢磨して成長できる会社作りをしていきたいの。」
若い柔軟な考え方が必要だということだ。
・・・このプロジェクトに入ったら、今までの営業だけしていた生活が一転する。
ああ、でも、やらなければならないのだ。
そして成し遂げ、のし上がって行かねばならない。
「プロジェクトチームのこれからのメンバーは、今月末の会議で提案され決定される。いずれも各部署の精鋭ばかりになるわ。互いに刺激を受けあって、良い会社にして頂戴。私は本社側の人間として今後のプロジェクトチームの統括責任を取るわ。だけど、実質的には、風見くん、あなたが統括するのよ。・・・受けてくれるわね?」
ごくりと唾をのんだ。
「はい。ご期待に添えるよう、誠心誠意取り組んで参ります。」
そう言った俺の声は、なんだか別人のように頭の中に響いたのだった。
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