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256 2018年9月19日 生誕前夜祭
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本日、いよいよ前夜祭。
風見さんの誕生日を明日に控え、おれは内心張り切りまくっていた。
翌日が朝から札幌へ移動だから、遅くまで起きるのはダメだけど、ちゃんとお祝いはしたい。
そんなわけで、今日は午後からお休みをもらって帰っていた。
帰る途中にある商店街のケーキ屋さんで、小さなホールのチーズケーキを受け取った。プレートは「あっくんhappybirthday」で書いてもらった。ついでに幸せのお裾分けで、美湖ちゃん達にも小さなショートケーキを買った。
部屋に着いて、お昼ご飯をササっと食べたら美湖ちゃんのお迎えだ。
楽な服装に着替えて幼稚園に行くと、すでに美湖ちゃんのお母さんは園の入り口に立っていた。
「すみません、お待たせしました。」
「いえ、ちょうど私も着いたところでした。」
門を入ると、おれたちに気づいた美湖ちゃんは、走って抱きついてきた。
「さっちゃんさん、こんにちは。」
「あやの先生、こんにちは。」
振り返ると美湖ちゃんのお母さんは、別のお母さんに捕まって話をしていた。
「美湖ちゃん、さっちゃんのおむかえ、よかったね。」
「うん!さっちゃんね、ごほんよむのじょうずなの。」
「へー、さっちゃんはなんでもできるねー。」
・・・あやの先生、恥ずかしいです。
公開処刑を受けている気分だ。
「あー!うわきしてるー!うわきうわきー。」
「タイシくんのばーか!ばーかばーか。」
突如として現れた男の子が、美湖ちゃんのことを揶揄(からか)いはじめた。
・・・ん?タイシくんって聞いたことあるぞ。
『およめさんになったら、いうんだってタイシくんがおしえてくれたのー!さっちゃんもいってー!』
なるほど。さては美湖ちゃんのことが好きだな?
あやの先生を見ると、ちいさなふたりを微笑みながら見ている。
ふと、気になった。
「あやの先生、お仕事楽しいですか?」
「そうですね、大変ですけど楽しいですね。」
「大変って、ああいう事ですか?」
ほかの先生が、半裸で走りまわる園児に服を着せようと追いかけている。
「ブフッ。・・・あれは日常です。」
「日常なんですね、ふふ。」
「おゆうぎ会とか運動会とか、まず言う通りにならないのが子どもたちです。ここは小さな子どもたちへの教育の場ですから集団行動であったり、人付き合いであったり、心を成長させていく教科書のない教室なんですよ。」
・・・おれの心に響いた。
「遊びや喧嘩、そんな中に心を成長させる何かがあるから、頭ごなしには怒れない。こっちとしては精神修行ですね。」
笑いながら悪戯っぽく笑ったあやの先生にお辞儀した。
「また、色々教えてください。」
「私で良ければ。」
小夜は美湖ちゃんと3人で帰りながら、目に入る人たちに心の中で問いかけていった。
ねぇ、何故その仕事を選択したの?
ねぇ、その仕事はどんな仕事なの?
中途半端なおれにとっては、働く人たちはキラキラと輝いて見えた。
「さっちゃん!」
急に美湖ちゃんに呼ばれた。
「なに?」
見上げてくる美湖ちゃんと目線を合わせるためにしゃがむ。
「だーいすきッ」
と、美湖ちゃんが首に抱き着いてきた。
不安だった気持ちが癒されて、小夜は微笑んだ。そのまま美湖ちゃんを抱き上げた。
「・・・ありがとう。帰ったらケーキがあるよ、お母さんと一緒に食べてね?」
「やったー!けーきけーき。」
大喜びする美湖ちゃんを抱え直し、家路についた。
・・・さあ、これから前夜祭の準備だ。
美湖ちゃんたちと部屋の前で別れると、小夜は大切な恋人をお祝いするため、段取りを思い浮かべたのだった。
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