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・・・俺たちは興奮した体を少し落ち着かせてから、廃線路をそのまましばらく歩いていた。
鈴の音に振り向くと、人力車に追い抜かれた。
「え?」
「あ。暁さん、変なマーク。」
小夜の指し示した先には、優先路と書かれた看板があった。
そこには、自転車のマークと人力車のマークが書いてある。
「ブフッ、こんな標識初めて見たよ。」
「だねー!」
目をキラキラさせて笑う恋人を見ているのが楽しい。
小夜を連れてきた甲斐があった。
「小夜、こっちの旧ウォール街ってところ行ってみよう?」
廃線路から横道に入ると、車の通る道を歩いていく。妙に路駐が多いことが気になった。
「駐車場入れたらいいのにね。」
こそこそと話す小夜の頭を撫でて、駐車禁止の標識を見上げた。
!!
「ん?どうしたの?」
「・・・ほら、違反じゃないんだよ。」
「え!?」
通常、駐車禁止標識の下に補足の看板があったら「何時から何時まで」や「月-金 9-10」の駐車禁止になる時間帯が書かれる。
だがそこには「12月1日-3月31日」の、まさかの日にち指定が書いてある。
・・・衝撃を受けた。
いや、ほんと。
電車でのノンビリ旅を選択してよかったと思った。
小夜と顔を見合わせて吹き出した。
目からウロコ。
雪が降るから?除雪のため?
ところ変われば、標識も変わる。
さっきの人力車が優先の道路に、駐車禁止が季節限定の標識。
やっぱり自分の世界は小さくて世の中は広いんだと思った。
小夜がいなければ、足を伸ばさなかった地。
小夜が居たから気付けたこと。
俺の心臓は小夜がいるから動いて、小夜がいるから世界を愛せている。
ギュッと恋人の肩を抱き寄せ、そっとその柔らかな髪にキスをした。
・・・だんだんと暗くなってきた街中は、なんだか異世界へと続いているような不思議な空気を纏っている。
人気のあるエリアから離れて歩く俺たちは、その不思議な世界で密やかなデートをしながら、思い出を重ねていった。
この通りをでたら、また観光客に人気のあるエリアになる。
小夜の肩から手を離し、地図を見せて寿司屋通りにいくか運河に戻るか聞いた。
「えっと・・・運河に行っても良い?運河を見て、ガラス細工を見に、ここに行きたいな。」
あの女性からもらったパンフレットを見せられた。
「不器用だから作れないけど良い?」
「仕方ないなー、許してしんぜる。」
可愛い唇をきゅっと摘まむと、姫の許しを得て、運河沿いに戻っていった。
------------※ ※ ※------------
「綺麗・・・ノスタルジックって、こういう雰囲気のことだよね。」
「だな。」
運河で、ふたりでくっついて写真を撮った。
ただ、俺が腕を伸ばして写真を撮っても、なかなか背景の様子が映らない。
と、女性ふたり組が近づいてきた。
「あの・・・良かったらお互い撮り合いしませんか?」
「助かります、そちらで撮りますか?」
有難い申し出に即座に乗った。
カメラを預かり、後ろのライトアップされた倉庫が見えるようにアングルを合わせた。
よし。
映りを確認してもらい、交代する。
連写されて、吹き出した。
「ふふ、いかがですか?」
連写の一コマを見ると、ふたりで顔を見合わせて笑っている幸せいっぱいの写真があった。
「・・・良いです、素敵だ。お上手ですね。」
「もう一枚撮らせて下さい。今度は背景入れますから。」
女性は褒められて くすぐったそうに笑いながら、注文された。
「殿は姫を抱き寄せて、向こうの回転寿司の看板を見て。姫は殿を見上げて下さい。」
ブフッ、殿に姫。よくおわかりで。
真っ赤になった小夜をしれっとした顔で抱き寄せると、言われるがまま、遠くの回転寿司の看板を見た。
・・・取れた写真を確認すると、絵葉書のような素敵な写真が撮れていた。
「すごい・・・。思い出になります!」
「姫が喜んでくださって、私たちも嬉しいです。」
小夜がよろけた。
「ひめって・・・。」
「腐女子なんで、お気になさらず。」
小夜と女性の会話に吹き出した。
なかなか手ごわい相手に、小夜もタジタジだ。
俺はもうひとりの女性にお礼を言った。
「ふふ。こちらこそ、堪能させていただきました。お互い観光楽しみましょうね?」
「はい。」
世の中、捨てたもんじゃない。
こうやって応援してくれる人だっているのだ。
小夜の頭をひと撫でして、俺たちはガラス細工の店へ向かった。
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