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性欲は、満月の夜に高まる。
それはついこないだ、友人との雑談で出た話題だった。
ヤリたい。セックスしたい。愛とか情とか関係無い。
そんな本能だけの性欲に支配されてたまんない日に空を見上げたら、大抵満月なんだって。
そんなの関係ねーだろ、なんて、その時は笑い飛ばしていたけど、今俺は無性にその衝動に駆られている。
寝転がったまま、チラリと窓に視線をやる。もちろん夜だからカーテンは閉まっている。
ましてや、この季節。コタツから出るのすら億劫だ。
だから、ネットで調べてみた。月の周期を。
なんとピッタリ。今日は満月だ。
「すげえ……」
性欲と満月の関係も。調べりゃなんでも教えてくれる現代技術も。
「あーヤリてえ!」
「……さっきから独り言気持ち悪い。なに見てんの?」
ムラムラしてたまらない衝動を蹴散らすように、勢いよく起き上がると、向かい側からコタツに足を突っ込んでいた弟の、怪訝な目線にばったり遭遇。
携帯を見ながらブツブツ言っていたため、無視できなくなったようだ。
「エロいやつじゃねーよ? 月について調べてたんだって。ほら」
携帯画面を見せつければ、興味なさげに一瞥する弟、理絃(りいと)。
一つ年下で、今年の四月から俺と同じ大学に通っている。そのため実家から離れたこの2Kのアパートに二人暮らしをしているのだけど。
クール。というか必要以上に落ち着いていて、俺とは正反対。反応はいつも冷ややかすぎるくらいだ。
「エロいやつじゃん」
わざとらしくため息をつく理絃。声色が酷く冷たい。
「違うっての。今日満月だから! 見てみ、書いてあんだろ」
「……だから、結局エロいこと考えてたんでしょ」
「いや、まぁ……それも満月のせいというか」
「そんなのほんとに信じてんの? 見た目によらずメルヘンだね。キモ。そんなのと血が繋がってるなんてやだなぁ」
今、キモいっつったな?
お兄ちゃん、地味にショックなんですけど?
小さい時はあんなに可愛かったのに。おにいちゃん、おにいちゃん、と言って俺の真似ばっかして金魚の糞みたいに俺にくっ付いてきてたのに。
いつから兄を手のひらで転がして遊ぶようなヤツになってしまったんだろう。
なんだかんだ言いながら、大学は同じところについてきたけど。可愛いヤツ。
そりゃ満月だからなんていきなり言われても、なんだそりゃってなるかもしんねーけど。
月の光に影響されるなんてオオカミ男じゃあるまいし、なんてブツブツと愚痴をこぼしながら、また大きなため息をつかれた。
いいじゃねぇか、オオカミ男。
理絃くんってば夢が無い。俺なんかだったら喜んでみんなに自慢しちゃうけどね。
「だってネットに書いてあんだもん」
ただ月の力に誘われて、ムラムラしてるだけ。
「あ、でも俺は人間だから血ぃ繋がってないのか。父さんも母さんも人間だし、じゃあお兄ちゃんは拾われっ子か……」
「哀れんだ目で見んな! 俺は正真正銘のニンゲン! お前の兄貴、滝沢結人(ゆいと)!」
兄をからかうんじゃねぇ! と声を上げれば、大きなため息と共に、悪態が返ってきた。
「うるさいなー。そんな大声で自己紹介しなくても、生まれた時から知ってるよ、そんなの」
「…………」
なんだ、いきなりデレやがって。可愛いヤツめ。
「分かってるって。満月になると性欲強くなるんでしょ? 今日満月だもんねぇ」
ニヤリ、と笑う理絃。
「分かってんならおちょくるなよ……」
「だってお兄ちゃん面白いから。で? お兄ちゃん今、ヤリたいの?」
読んでいた雑誌を閉じ、真正面から俺を見る。
「改めて聞かれても気まずいんだけど」
「ヤリたいの?」
「まぁ……満月だし」
俺ってば、なに正直に答えてるんだ。しかも、理由! バカ丸出し!
また笑われる、と思えば、理絃から返ってきたのは、思いも寄らぬ答え。
「じゃあヤる?」
唐突に。なにを言ってんだ。ツッコミどころ満載なんだけど。
「はぁ?」
「だから、セックスする?」
「はぁ? 誰と」
「俺と」
「……一応聞くけど、誰が?」
「お兄ちゃんに決まってんじゃん」
俺、ポカン。こいつ、兄の俺と、セックスしようなんて言ってるわけ?
「いや、でも俺ら兄弟だし」
テンパった俺が絞り出したのは、なんともまともすぎる返答。そこじゃねえだろ、俺。
「大丈夫だよ。間違っても子供なんて生まれないし」
「いや……いや、あの、それもまた問題っつーか……」
とりあえずさ、兄弟だということは無しにしてもだよ?
俺は男、理絃も男。それって普通じゃない。
「あ、俺のこと差別するんだ?」
「は? 差別じゃなくて」
「俺、実はゲイなんだよね」
わけのわからないことを延々と言う弟を宥めようと、あまり回らない頭で答えれば、なんともいきなりのカミングアウト。
「は……、マジ……?」
「嘘でこんなこと言わないよ。俺が彼女いたことある?」
理絃の言葉に思い返せば、確かに無かった。
俺よりなんでも卒なくこなして、友達も多くて、背は同じくらいだけど、美人な母親によく似た弟は、俺より器量がいい。
まぁ自慢の弟だから、多少盲目入ってるかもだけど。昔からよく誰々に告られたなどという話はしていたし。
けど確かに、大学生になっても、浮いた話の一つもなかった。
「……そうか」
「うん、そうなの。お父さんにもお母さんにも言ってないけどね、だから内緒だよ」
「内緒って……いいの? お前、そんなの俺に言っちゃって」
親にも言ってない秘密を、こんなところで暴露するなんて。
兄としての信頼があるからかと思えば嬉しいけど。
「お兄ちゃんだから言ったんだよ。ていうか、それより、どうなの? 俺とセックスしないの?」
「っ……お前直球すぎ……」
少し寂しげな顔をした弟に、なんて言葉をかけようか迷っている俺に、悩む隙も与えず情緒のないお誘い。
お誘いか? これ、お誘いなのか?
普段から性生活の話なんてしたことある兄弟じゃなかったのに。
まあ弟に彼女いなかったから、童貞だと思ってたしな。
ん? 男同士でもヤレるんだから、てことは童貞ではないのか?
いや、でも理絃がいわゆるオンナ側なら童貞の可能性は消えない。つーことは非処女……!?
「気持ちよくしてあげるよ? 兄ちゃん」
コタツから抜け出し、俺の横に来た理絃は、耳元で息を吹きかけるように囁く。
こいつ、いつの間にこんな顔するようになったんだ。つーか、弟にビビる俺、なんなんだ。
「や、理絃、あの、さ、冷静に、なろーよ」
「満月なのに?」
「……ぅあっ」
理絃の手は、コタツ布団の中を弄り、俺のそこを、ダイレクトに掴んだ。
思わぬ刺激に、声が出る。
おいおいおい、俺ってば弟の前でなんて声出してんだよ。
「おにーちゃん、硬くなった」
「……理絃が触るからだろ。って、おい、理絃」
「ん? ヤリたくないの? どーせ勃っちゃったんだから、一人で処理するより良くない?」
「ん……っ」
またもや触る手に力を入れる理絃に反論しようとすれば、今度は唇を塞がれた。
歯列を舌で撫ぜられ、直接的な刺激を受けている俺は、無意識に口を開く。
そうすれば、ヌルッとしたものが口内に入り込み、逃げ惑う俺の舌を、追いかける。
理絃の唇って、こんな柔らかかったんだ。
つーか、キス上手い。
口内を暴れる理絃の舌の熱さと、直接的な刺激に、理性が遠のいていく。
「んっ……ぁっ、おま、ちょ……っ」
スウェットの上から触っていた理絃の手が、今度は下着の中へ入ってくる。
そのままモノに触られそうになって、俺はストップをかけた。
「嫌……? もうかなり硬いよ?」
舌舐めずりをしながら、制止を聞かず続けようとする理絃を全力で止め、俺は立ち上がる。
スウェットを押し上げてるイチモツが丸分かりなのが、少しダサい。
「おにーちゃん?」
「……来いよ」
座ったまま目を丸くしている理絃の腕を掴み、リビングを出る。
仕掛けてきたのはおまえだろ。なに驚いてんだ。
「おにーちゃん……?」
リビングとして使っているこの部屋。スライドのドアを明けるともうひとつ奥の部屋がある。俺の部屋でもあり、理絃の部屋でもある寝室。
几帳面な理絃と違い、怠惰な俺はいつも布団は敷いたままだ。
理絃の腕を掴んだまま、その敷きっぱなしの布団の上に押し倒す。そして薄暗い中、理絃の唇を自分ので塞いだ。
「おにーちゃ……」
兄たるもの、弟にやられっぱなしでどうするんだっての。
満月だし。自分のモノはもう反応してしまっているし。
「ヤろーよ、俺とセックス」
理性が戻った時、後悔するかもしれない。
いろんな不安が脳内を過ったけど、考えないことにした。湧き上がる熱をどうにかしたい欲のが高まってた。
平凡な日常を変えるかもしれないなにかへの、背徳感にすら、興奮していたのかもしれない。
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