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始まり
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人と話すことや目を合わすことが僕は苦手でしょうがない。この9年間、特に仲のいい友達も出来ず繰り返される日々をずっと一人で過ごしてきた。
だから高校を受験する際に、小・中と僕を知らない高校を受験し、高校デビューを果たさそうと強く決心した。
でも実際にそれを上手くやれる人はどれくらいいるのだろうか?
『頑張れば出来る』『夢を持って突き進めばいつか叶う』なんて・・・・僕にとっては全てが戯言にしか聞こえない。
ウキウキとした気持ちで迎えられるはずの新学期、中学からの友達と同じ高校へと進学し一緒に登校し、これから始まる新しい出来事に心躍らせる・・・・なんてことは僕こと源道郁(ゲンドウイク)は決して味わうことのないことなのだと、すでに諦めがついていた。
2階にある教室に向かうべく、僕は群がる人混みの間をかき分け自分の靴箱を目指していた。
楽しそうな声が辺り一面から聞こえてくるが、内容までは頭に入ってこない。
そして僕はそんな人たちを見て決して羨ましいなんて思うこともない。ただただ無関係で無害を演じ僕は空気へと変わる。
「あっ」
と、そんな空気の僕に誰かがぶつかり、両手で持っていたカバンが地面へと転がり落ちた。ぶつかってきた人はすでにその場から離れ友人としゃべりながら人混みの中へと消えていき、ただそこに雑音と戯言が広がっていた。
急いで拾おうにも行きかう人混みでなかなか前に進めずカバンはたくさんの足跡でいっぱいになっていた。僕の地面に落ちているカバンは踏むたびに悲鳴が上がるが、拾ってくれる人はいない。
(やめて)
その一言が僕には言えない。目立つこと、人に注目されることが嫌いな僕は自分自身の声を打ち消した。口をつぐみ、あと少しのところまで来た時だった。突然カバンが宙に舞い僕より少し高い位置で止まったのだ。
「これお前の?」
そう声をかけてきたのは、僕と同じ新入生の男子だと言うのにえらく身長が高く、首を後ろに倒さないと顔が把握できないほどだった。やっとみえた表情は満面の笑みを浮かべ足跡だらけのカバンを綺麗にはたいているのだ。
「お前のだろ?ひでーよな、誰も拾わないの」
赤の他人だというのに、僕の足跡だらけの汚れたカバンを丁寧にはたいている様子に呆気にとられ、返事を返すのを忘れていた僕に男子生徒はもう一度確認し、確信した。
「ほい、一応中も確認しとけよ?おい?聞いてるのか?」
先ほどよりさらに距離を詰めて話しかける男子生徒に僕は何を話せばいいのか分からず、ただ相手の目を見て目の前を涙で濡らした。人と話す恐怖が心の奥底から沸き上がったのだ。
すぐに俯き男子生徒からカバンをもぎ取りお辞儀だけして僕はその場から逃げ出した。
なんて失礼で最低な僕、何も逃げ出すことなんてなかったのに、僕を苛めるやつでもなかった、僕なんかのためにカバンを拾い泥をはらってくれた。
(あ・・・・お礼・・・・言ってない)
心の中で『ありがとう』と『ごめんなさい』を繰り返し僕はまた人混みへと戻ろうとしたが足が震え人混みを拒否していた。僕とは全く違う人種、これからきっと関わることは決してない。
そう思ってしまえば僕の中で『逃げる』と言う選択肢が浮上していたのだ。
僕は迷わず『逃げる』を選択し本来向かうべく靴箱へ遠回りして向かったのだった。
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