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「郁、おはよう」
重たい玄関の扉を開けて外に出た瞬間に降りかかってきた言葉は、同じクラスメイトの谷中君の第一声だった。
朝に一緒に行こうと約束をしたわけでもない。携帯の番号を交換してすぐに谷中君からメールが届いたけど、僕はそのメールを見ることはなかった。
連絡先が身内しか入っていない僕の携帯が久しぶりにメールの着信音が鳴り少しだけ嬉しく思う。だけどそこから先、手を動かすことが出来なかった。なんと返事を返す?返事を返して会話は続くのか?もし返事が返ってこなければ?
そう考えるだけで僕は携帯を机の上に置いて気づかない振りをするしかなかった。
「お、おはよう谷中君。あの・・・・メールくれてたみたいで、僕、朝に気づいて・・・・それで、あの・・・・ごめんなさい」
僕は謝った。謝るのならメールくらい見ればよかったのに、臆病な僕は小さく縮こまることしか出来なかった。肩にかけた鞄の紐をぎゅっと握りしめ谷中君の顔をまっすぐ見ることが出来ない僕。そんな僕に谷中君は悪態をつくことはなかった。
「謝らなくていいよ、メールくらい気づかない事だってあるからさ」
にっこりと笑う谷中君。こんなことならメールくらいすぐに確認して簡単に送り返せばよかったと後悔した。うなだれる僕を見た谷中君は何を思ったのか急に僕の後頭部に触れてきた。
「っ!?」
驚いた僕は谷中君の手を払い少し後ろへと身を引いた。
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