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香り
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なぜだかすごく喉が乾いていて、餓死しそうなくらい空腹な感覚があった。
その分水をかなり飲んだし、食事も十分にとっているのに、治まることがない。
午後の講義が終わる頃には目眩がするほどになっていて、なんとか家に帰ろうと人混みを避けて路地に入った裏道を通った。
歩き回っている人間にすら喰らいついてしまいそうなくらい、飢えていた。
雑居ビルの密集した裏路地を歩いてアパートを目指したが、ついには歩くのも辛くなってきて道の端のブロックに座り込んてしまった。
早く帰って何か食べるか寝てしまうかしたかったが、どうしても立ち上がる気力がなかった。
☪︎
とても芳しい、良い香りがする。
普通の人間には気付けない、特別な香りだ。
どんな、という人間に分かりやすい例えも難しい香りだが。
瑞々しく、まだ青く、目覚めたばかりの香りだった。
ほんの少しだけ、味見をする気になった。
☪︎
目の前にしゃがみこんだ人間が、金髪をしているのがかろうじて見えた。
僕はすでに座ってられなくなって地面に倒れ込んでいた。
覆いかぶさるように僕の顔をのぞき込む《金髪》が、僕の顔に触れて言った。
細くて体温の低い手だった。
「......君は、吸血鬼だね」
金色の髪の奥に、濃い紫色の瞳が見えた。
抱え上げられたところまで覚えているが、それからの記憶が途切れている。
金髪が顔に触れて、濃厚な、甘い花のような匂いがした。
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