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始まりの話 4
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「もうすぐクラス替えかあ…」
一年生も終わりかけの頃、ふいに神木坂がそう言った。
「…そう、だな」
あと少ししたら、俺たちは同じクラスでは無くなるかもしれない。
当たり前の事実に今更気付かされ、自分でも笑えるぐらい動揺した。
「…クラス変わってもさ、これまで通り仲良くしてくれたら嬉しいな」
「……おう」
頷きながら、しかし頭の中ではきっとそうはならないと思っていた。
神木坂は嘘をつかない。彼の言葉はきっと今の本心だろう。
けれど、そもそもこいつは俺なんかと一緒にいるような人間では無いのだ。
新しいクラスでも沢山の人に囲まれて、新しい友達もすぐにできるだろう。
神木坂はサッカー部だから、後輩も入ってきてどんどん忙しくなって、俺のことなんか頭の中から抜け落ちるに違いない。
そうなると、俺は別のクラスにまで足を運んで呼び出すほどの勇気は無かった。
そもそも、これだけクラスでは一緒にいた神木坂とも放課後や休日に遊びに出かけたことは無い。
クラスメイトだからこそ関係が成り立っていた。
きっと、飴が溶けるみたいにじわじわと俺たちの関わりは薄くなっていくのだろう。
「なあ、陸」
「なあに優太」
重ねた時間の中で、いつしかお互い呼ぶようになった下の名前も、今では当たり前のように舌に馴染んでいるのに。
俺は適当なノートの隅を破ると、手元にあったペンでいちご柄のパンツの絵を描いた。
目玉と口と前に突き出す下手くそな手も書き足して、「STOP!社会の窓の閉め忘れ 〜貴方の不注意が、誰かの腹筋を殺します〜」の文字を吹き出しで囲んだ。
「餞別だ。まあ寂しくなったらこれ見て思い出せ」
「ブッ…!」
案の定、陸は吹き出して撃沈した。
「いや、これ見ても、フッ、思い出すの、ヒヒッ、絶対優太の顔じゃなくて、山センでしょ……」
「ホホホ、感動したからって泣くでない。」
「笑い泣きしてんの!」
この、無くなるんじゃないかというぐらいにキュッと目を細め眦を下げる全力の笑顔を、一番側で見るのが自分ではなくなることは、なんだかとても寂しい気がした。
終業式の日の朝、「はい、僕からも餞別。後でこっそり見てね」と封筒を渡された。
式の最中、校長の話が「三つの心得」と銘打ったにも関わらず既に6つ目の話題に入り大いに暇だったのでこっそり開けてみると、中からコロリとストラップが出てきた。
なんと、俺が前に描いたいちごパンツちゃんの。
あいつ、まさか手作りしたのか…!?
「ブッフォ…!」
俺の吹き出す声が体育館に響き渡り顰蹙を買ったことは、言うまでもない。
ついでに振り返ると、列の後ろの方で元凶は思いっきりニヤニヤしていた。許すまじ。
そんなこんなで、高校生活1年目は割と呆気なく幕を閉じた。
陸に会えないその年の春休みは、酷くつまらなかった。
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